AI活用の障壁であるアノテーションの自動化でパナソニックHDとFastLabelが協業:人工知能ニュース(2/2 ページ)
パナソニックHDとFastLabelは、パナソニックグループのAI開発の効率化を目的とし協業を行う。AIプロセス全体の効率化とともに、パナソニックHDが開発するマルチモーダル基盤モデル「HIPIE」とFastLabelのData-Centric AIプラットフォームを統合し、自動アノテーションモデルとして構築する。
AIインフラの構築を目指すFastLabel
FastLabelは2020年1月創業のAIベンチャーで「AIインフラを創造し、日本を再び『世界レベル』へ」をパーパスとしている。現在AIの活用は広がっているものの、局所的でありAIがなくても社会そのものが回る環境である。ただ、今後はAIへの依存が増しAIの停止が社会活動の停止につながる可能性も生まれてくる。その中でAIを作って供給する社会基盤として「AIインフラ」というべき存在を作り上げていくことをFastLabelは目指している。
FastLabelはAIの市場の変化についてデータセントリックに変化していると訴える。「従来のAIはアルゴリズム開発やコーディングが重要でAIエンジニアが中心だった。しかし、今はオープンな形でアルゴリズムが公開され、最適なアルゴリズムを選択するだけで最新のAIアルゴリズムが活用できる。そこで重要になるのが教師データの作成だ。データの意味や活用の方法など、非エンジニアがAI開発の主役になってきている。実際にAI開発の工数の約90%がアノテーションに費やされており、この部分は効率化が進んでいない。非エンジニアでも使用できるプラットフォームを提供することで、幅広い領域でAIが活用できる環境を支える」とFastLabel 代表取締役 CEOの鈴木健史氏は語る。
FastLabelが提供するData-centric AIプラットフォームは、直感的に利用できるユーザーインタフェースを備えており、非エンジニアでも、データ管理やアノテーション、モデルの学習や評価まで、一貫したAI開発の運用を可能にする。既に国内大手企業を中心に数百社以上の導入実績があり、アノテーション代行事業を展開する他、アノテーション機能の改善や新技術の取り込みを進めている。
連携で非エンジニアも使えるAIへ
パナソニックHDとFastLabelの協業は、具体的には主に2つの点で行う。1つ目がパナソニックHDのHIPIEとFastLabelのData-centric AIプラットフォームの連携だ。FastLabelが提供するData-centric AIプラットフォームのユーザーインタフェースからHIPIEを自動アノテーションモデルとして実行できるようにする。そして、パナソニックグループが保有するデータを用いてアノテーションコストの削減を進めていく。さらに、アノテーションされたデータを用いてHIPIEのファインチューニング(AIモデルを特定のタスクやデータセットに合わせて微調整するプロセス)を行い、各現場に特化したアノテーションモデルを作成する。両社の技術を組み合わせることで、例えば従来は手作業で行っていたアノテーション作業を自動化でき、1物体当たり60秒の作業を5秒に短縮することができるとしている。
2つ目が、パナソニックHDにおけるAI開発ワークフロー全体の効率化を進めるためにFastLabelのさまざまな技術やノウハウを活用するということだ。九津見氏は「AIインフラそのものをFastLabelのユーザーインタフェースに統一するだけでも、AIのワークフローそのものをかなり効率化できる。パナソニックグループは多彩な事業を展開しており、これらの現場それぞれでAIを活用するための個別対応の負荷が非常に高いため、これらを効率化していくことは重要だ」と語っている。
今後はさらに、ストックマークとの協業で進めるパナソニックグループの社内データを追加事前学習させた大規模言語モデル「Panasonic-LLM-100b」も、HIPIEとData-centric AIプラットフォームに組み合わせることで、さらなるAI開発向上を推進していくとしている。
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