3Dプリンタで建設業界を変革する ディープテックベンチャーの挑戦:3Dプリンタの可能性を探る(2/2 ページ)
建設用3Dプリンタ技術で業界の変革を目指すPolyuse。共同創業者で代表取締役の大岡航氏に、同社の目指すビジョンや新たなルール作りに関する取り組み、最新の施工事例などについて話を聞いた。
新しいルール作りにも参画
――建築分野では建築基準法が重要です。土木分野での重要なルールにはどのようなものがあるのでしょうか。
大岡氏 土木分野では工事を行う際の品質を確保するため、示方書という形で設計、施工、維持管理などに関する基準やガイドラインを提供する文書が存在する。その中でも代表的なものとして、例えば「道路橋示方書」や「河川砂防技術基準」などがあり、それぞれ道路橋、河川や砂防の設計/施工/維持管理に関する内容が記載されている。その他にも、土木学会が定める「コンクリート標準示方書」などもあり、設計者や施工者はこれらの示方書に従い施工を進めることが求められている。
現在、建設用3Dプリンタに関するルールはまだ少ないが、既存の規制や取り決めを無視してよいことにはもちろんならない。特に公共工事では、“未来にわたる安全性にかかわる品質を説明できること”が重要になる。そのためには、例えば、第三者機関の評価やリスク評価を実施するとともに、自治体や規制当局と慎重な協議を進めていくなどの体系的なアプローチが必要だ。これまで、あらゆる組織や専門家の方々と協議を重ねてきたことが、われわれの技術への理解と評価につながっている。現在、建設用3Dプリンタに関する複数の新たなルール整備に参加している。そこから、より実務レベルでの活用が可能なガイドラインや示方書が発刊されることで、“建設用3Dプリンタが当たり前になる未来”が近づくだろう。
道路橋脚への採用は大きな一歩
――具体的なPolyuseの施工事例を教えてください。
大岡氏 最近の取り組みの中で、特に重要な事例の一つと考えているのが、道路橋脚のフーチング基礎(底部が広がった形状の基礎)だ(図4)。2023年11月に、高知県での国土交通省 四国地方整備局 土佐国道事務所の発注工事で、重要構造物の構造体の一部としてPolyuseの建設用3Dプリンタで印刷した構造物が国内の公共工事で初めて採用された。これは設計断面に含まれる形で「残存型枠」(施工後も構造物の一部となる取り外し不要の型枠)の印刷になる。残存型枠利用ではあるが、鉄筋の腐食、劣化を防ぎ、耐久性を保つために不可欠な構造物部分の一部になる。橋脚は上部の道路や橋を支える主要な構造要素であり、技術適用には十分な検証と評価、高い安全性の確認が求められる。このような重要構造物への適用は非常に難易度が高く、将来の建設用3Dプリンタ普及に向けた大きな第一歩といえる。本プロジェクトは引き続き検証と経過観測を進めていくことになるが、未来の建設業界において歴史的な出来事になり得ると考えている。
山形県の災害復旧工事でも活用した。落石防護柵を設置する基礎となる「重力式擁壁」の残存型枠の印刷に3Dプリンタを用いた(図5)。これにより、従来工法では工期が82日間必要だったところ、約半分の43日間に短縮できた。さらに、従来工法よりも安全かつ少人数で容易に施工することにも成功し、地元環境への配慮にもつながった。
他にも、堤防の護岸工事において、景観に配慮した擬石模様のブロックの印刷(図6)や、歩車道境界ブロックの現地印刷の実績もある。また、水路に施工した3Dプリンタ製の重力式擁壁では、3Dプリンタ特有の積層模様と現場打ちコンクリートの滑面との水流に対する抵抗力の比較検証を実施したり、生物配慮の考えに基づく3Dプリンタ魚道の形状や構造の研究を行ったりなど、多種多様な実証実験や研究を全国で実施している。
また、国内初の3Dプリンタサウナ建物や倉庫、マンションの外構、公共施設でのベンチやモニュメントなど、建築分野での適用事例も増えている。
2025年春に量産販売をスタート
――今後の活動について教えてください。
大岡氏 現在、全国の建設会社やコンクリート二次製品メーカーを中心に、当社製建設用3Dプリンタを活用した施工事例が積み上がっている。また、ルール整備も日々進んでいることもあり、これまで新技術に消極的だった方々からの相談も急増している。
また、これまで「Polyuse Zero」モデルの試験販売を行ってきたが、2025年春に量産販売を開始するPolyuse Oneモデルの先行予約受付もスタートさせた。Polyuse Oneは、これまでと比べて印刷スピードや吐出量、機械の可搬性、造形精度や安定性、各種制御技術などをアップデートしたものだ。また、地震や台風などの災害現場の復旧工事に関してもスムーズな技術連携を目指し、各自治体と協議を進めている。
現在の建設業界は、担い手が減少しているにもかかわらず、工事の案件数はインフラの老朽化などにより増加傾向にある。当初より工期面が不安視されている「大阪・関西万博」の時間外労働規制の適用除外を巡る議論もある。しかし、労働時間を増やして対応するのではなく、建設用3Dプリンタのような新技術を積極的に適用することが、未来像を示す万博の本来の役割ではないかと思う。
建設用3Dプリンタという、まさにこれからの技術に対して建設業界がどう判断していくのか、期待を持って活動している。建設業界の出身ではないPolyuseチームだからこそ発信できることがあると考えている。その上で最大限、建設業界に貢献することで、柔軟なモノづくりを心から目指す次世代の技術者が増えることを期待している。
――ありがとうございました。
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