10nm以下の線幅で半導体微細加工ができる高分子ブロック共重合体を開発:研究開発の最前線
東京工業大学は、東京応化工業との共同研究で、10nm以下の線幅で半導体微細加工ができる高分子ブロック共重合体の開発に成功した。半導体基板に微細な回路パターンを描画する鋳型を作製できる。
東京工業大学は2024年8月22日、東京応化工業との共同研究で、10nm以下の線幅で半導体微細加工ができる高分子ブロック共重合体の開発に成功したと発表した。ポリスチレン(PS)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)から成るブロック共重合体(PS-b-PMMA)で、シリコン基板上に塗布した薄膜中に線状構造を形成し、半導体基板に回路パターンを描画する鋳型を作製できる。
開発したPS-b-PMMAは、PS-b-(PGMA-r-PMMA)と2,2,2-トリフルオロエタンチオールを高分子反応により合成したPS-b-(PGMAF-r-PMMA)だ。前駆体のPS-b-(PGMA-r-PMMA)は、スチレン、1,1-ジフェニルエチレン、メタクリル酸メチル(MMA)とメタクリル酸グリシジル(GMA)のリビングアニオン重合で得られ、極性官能基である2,2,2-トリフルオロエチル基とヒドロキシ基の導入割合を精密に制御できる。
小角X線散乱(SAXS)測定と透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた解析の結果、合成されたPS-b-(PGMAF-r-PMMA)は、線幅10nm以下相当の微細な板状構造(ラメラ構造)を形成することが明らかとなった。シリコン基板上の薄膜内部では、空気界面に対して垂直方向に配向する。誘導自己組織化により、基板上に作製したPSの化学パターンに沿って回路パターンに適したミクロ相分離構造の形成が可能だ。
導入された極性基の効果とヒドロキシ基により生じた水素結合がPS-b-(PGMAF-r-PMMA)内の引力相互作用を増大させ、PSとPMMAの交錯を抑制。検証では、周期長15.1nmのラメラ構造の配列制御で、従来のPS-b-PMMAでは困難だった回路パターンの線幅7.6nm相当の線状構造形成に成功している。
現状の最先端技術であるEUVリソグラフィによるパターン線幅の下限値を下回る成果を得られたことから、半導体回路パターンの微細化や高密度化への寄与が期待される。今後、300mmのシリコンウエハー上で回路パターンを形成し、実用化に向けた機能評価を実施する計画だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 新規窒化物強誘電体薄膜、水素含有ガス中の熱処理に対する高い耐久性
東京工業大学は、窒化物強誘電体のスカンジウムアルミニウム窒化物の薄膜が、600℃までの水素含有ガス中の熱処理後も強誘電性が劣化しないことを発見した。 - 自由に連続繊維を湾曲させて成形できる新たな複合材3Dプリンタとは?
東京工業大学 教授/Todo Meta Composites 代表社員の轟章氏が、複合材料と複合材料に対応する3Dプリンタの動向について解説する本連載。著者の研究グループが開発した、連続繊維を自由に湾曲させて成形可能な新しい3Dプリンタについて解説します。 - 3Dプリンタと複合材料で作製する多機能構造とは?
東京工業大学 教授/Todo Meta Composites 代表社員の轟章氏が、複合材料と複合材料に対応する3Dプリンタの動向について解説する本連載。今回は、多機能構造とコスト削減について解説します。 - 東工大「TSUBAME 4.0」は“みんなのスパコン”としてどのような進化を遂げたのか
急速に進化するAI技術との融合により変わりつつあるスーパーコンピュータの現在地を、大学などの公的機関を中心とした最先端のシステムから探る本連載。第1回は、2024年4月に稼働を開始した東京工業大学の「TSUBAME 4.0」を取り上げる。 - 3Dプリンタで成形する複合材料は世界を変えるか?
東京工業大学 教授/Todo Meta Composites 代表社員の轟章氏が、複合材料と複合材料に対応する3Dプリンタの動向について解説する本連載。第1回では、複合材料を成形可能な3Dプリンタの歴史や現状、同プリンタを用いて機械部品を設計する際に必要な安全率の重要性について紹介します。