ソニーが取り組むサステナビリティ、素材開発などテクノロジーで限界突破へ:製造業は環境にどこまで本気で取り組むべきか(2/4 ページ)
ソニーグループでは2050年の環境負荷ゼロを目指しそこから逆算でさまざまな取り組みを進める「Road to Zero」を推進。今回は製造業として、テレビやカメラなどのエンタテインメント機器の開発や製造を行う「ソニー株式会社」の環境に対する取り組みを、サステナビリティ推進部門 部門長の鶴田健志氏に聞いた。
精度の高い環境データを集めるためのガイダンスを実施
MONOist お話にあったように、取引条件として環境に関する情報をより幅広く求めたり、求められたりするような動きも広がっていますが、その点についてはどう捉えていますか。
鶴田氏 これまでは環境を専門にする団体から調査を受けて、それを企業全体の取り組みとして開示する形が中心でしたが、今はソニーの顧客やサプライヤーと直接やりとりを行って情報を共有したり、開示したりする必要が出てきており、条件や姿勢、企業の方針などを問われるようになってきたと感じています。従来も化学物質関係での情報開示はありましたが、CO2排出量についての情報など、開示が必要な項目は増えてきています。さらに、サプライヤーやパートナーなどを1次や2次までさかのぼって取得する必要があり、こうした情報や今後の削減目標などを、現在協力を得ながら求めている状況です。モノづくりはバリューチェーンが非常に長いので、そのバリューチェーンの中で協力し合い、共感し合って一緒に取り組んでいきたいと考えています。
われわれの部門はソニーグループの中で「エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)」というセクターに入っており、その要素に「テクノロジー」が入っていることもあるため、こうした環境問題への対応についても技術力で難しい点を解決していくことに積極的に取り組んでいこうと考えています。
MONOist サプライヤーやパートナーからのデータ収集という話がありましたが「GHGプロトコル」のスコープ3に関するデータ収集をどのように進めているのですか。
鶴田氏 2つパターンがあります。直接取引がある1次取引先については、1次データを直接もらうようにしています。既にオペレーションの中で使うエネルギーや水の使用量、削減目標などの項目を年に1回調査や提出をしてもらい、データをまとめています。もう1つは、一般的な市場からの購入品などに関しては、公開されている業界団体などの推計値をベースに計算しています。
こうした取り組みも3〜4年進めていますが、最初は精度が悪く、実測値との乖離も大きくありました。もちろんラインごとの実測値などが把握できれば、一番良いのですが、現状で全てのサプライヤーやパートナーに求めることは難しいため「実測値が取れる場合はこういう形、取れないのであればこういう形でデータを出してください」というようなガイダンスを行うようになりました。1つ1つガイドしてデータをもらうことで少しずつ精度も上がってきました。
MONOist データを収集するための仕組みも用意しているのですか。
鶴田氏 用意はしていますが、独自の大きな仕組みを用意しているわけではありません。環境に関するデータの扱いの幅が広がって難しくなった点は、1つの仕組みで全てを集めることが難しくなったという点です。それぞれの企業や部門で活動が大きく異なり、そのためにデータのとり方も大きく変わります。例えば、自社の製造については、エネルギーに関するデータベースがあるのでそこを参照することができます。しかし、自社工場であっても、さまざまな製品を作っているので、その中でこの製品や部品はどうかというように、より細かく見ていかなければならず、既存のデータやデータベースをそのまま使えばよいという話ではなくなります。
サプライヤーのデータも直接聞けるものと、一般流通市場から購入している汎用部品とでは対応が異なります。部品もどのような部品をどう使っているのかというのを把握するために、CADなどの設計情報や部品表との連携も必要になります。その他、物流では物流部門からルート情報などを受け取らなければなりませんし、顧客のもとで使われる電力情報などについては、業界標準のガイドラインなどを利用して1つ1つ計算しなければなりません。こうした多岐にわたる情報を取りまとめる必要があるということで、現状では手作業で集めているものも数多く残っています。
現在はその手作業の割合を徐々に減らしているところです。CADデータの中にCO2の2次データを計算させる仕組みを組み込むなど、細かい工夫をしています。大きなシステムをこのために作るのではなく、それぞれが既に使用しているシステムなどを活用しつつ、それを工夫で簡略化できるような活用方法を検討しています。
グリーン電力証書を早くから積極的に導入
MONOist ソニーグループでは非常に早くグリーン電力証書などを活用して、再生可能エネルギーの導入を進めてきました。
鶴田氏 グリーン電力証書(※)は一部でソニーグループが創設に関わり、仕組みを一緒に作ってきました。日本の再生エネルギー市場が活性化するように積極的に導入し、市場を作っていくことが使命だと考えています。ソニーグループ全体でも事業活動で消費するエネルギーを実質的に100%再生可能エネルギーで調達することを目指す国際的イニシアチブ「RE100」に加盟し、2040年までに100%再生可能エネルギーにすることを目標にしており、再生可能エネルギーをより容易に入手できる環境整備は必須だと考えています。
(※)グリーン電力証書システム:自然エネルギーで発電された電気の環境付加価値を、証書発行事業者が第三者認証機関の認証を得て、「証書」の形で取引する仕組み
われわれET&Sセクターではテレビやカメラなど完成品の製造が多いので、100%再生可能エネルギー化も前倒しで取り組みが進んでいます。主要なオフィスや工場は既に2023年度で100%再生可能エネルギー化を実現できました。工場では太陽光発電システムの設置や、証書の購入などをグローバルで進めて実現しています。今後は、なるべく証書に頼る量や比率を下げていくことを目指しています。これらの取り組みにより、スコープ2はほぼ実質ゼロに近づいています。ただ、全体が減ったことで思わぬところからのCO2排出量が多かったことに気付かされたところもありました。例えば、営業車の自動車から排出されるCO2の直接排出量が意外に多いことも最近気づいた点です。今後はこれらへの対策を新たに進めていくことになります。
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