「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」作成の背景と概要:製造現場への無線通信技術の導入(1)(1/3 ページ)
本連載ではNEDOが公開している「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」の内容を基に製造現場への無線技術の導入について紹介する。第1回は、本ガイドライン作成の背景と概要について説明する。
製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴い、製造現場への無線通信技術の導入も急速に進んでいます。製造現場という特殊な環境下では、導入する現場環境に応じた適切な無線設備選定や配置をしなければ、全体の稼働に支障を来すリスクがあります。
本連載では、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開している「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」の内容を基に製造現場への無線技術の導入について紹介します。今回は、本ガイドライン作成の背景と概要について説明します。
はじめに
2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、日本の製造事業者の多くがサプライチェーン寸断のリスクにさらされました。それに加えて近年、地政学的リスクの増大や、日本国内における自然災害の頻発等により、サプライチェーンを取り巻く「不確実性」は今後もさらに高まると想定されます。
このような状況下で、製造業においては安定した生産体制の確保がますます重要な課題となっています。さらに、グローバル競争の激化に伴い、コストの削減や品質の一貫性、生産効率の向上が常に求められる中、多品種少量生産にも対応する必要があります。
これら市場や環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、サプライチェーンを維持するための「企業変革力」(ダイナミック・ケイパビリティ)を強化することが、日本の製造業の競争力を維持するために不可欠となっています。
NEDOの取り組み
NEDOでは、2021年度より「5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業」に取り組んでいます。
本事業は、その時々の調達や受注の状況に応じて、迅速かつ柔軟に組み換えた生産ラインを制御し、最適な生産を可能にすることを目指したもので、IT(Information Technology)とOT(Operational Technology)のシームレスなデータ連携によるサイバーフィジカルシステムの実現や、生産ラインへの自律型AGV(Automated Guided Vehicle)の本格導入等への取り組みを進めています。
このような生産システムは、製造できる製品の幅を広げるだけでなく、従来型の生産システムと比較して単機能化やスリム化を行うことで、省エネや保守管理コスト削減への貢献も期待されます。
研究開発事例として、自走ロボットが切削加工の生産ライン内の設備を巡回し、センサーによる形状測定等の加工状況監視や、ワーク入れ替え等の加工支援を行える技術開発があります。この技術により、既存の設備を活用して、スマートな生産システムを構築可能とし、設備故障時もロボットアシストとライン変更で生産を維持することが可能となります。
別の事例として、3D設計データの軽量化と高速画像処理により、エッジデバイスで3D設計データを軽快に扱える技術開発があります。この技術により、VR(仮想現実)ゴーグルを使った仮想空間と現実空間を融合した3D設計モデルでの組み立て検証や、スマートグラスを使い実部品に設計情報や作業指示を表示した品質確認作業支援等が可能となります。
本事業では、2021年度〜2025年度に12テーマの研究開発に取り組んでおり、その対象は、切削加工、AM(Additive Manufacturing)造形、農業機器、自動車部品、半導体製造、製鉄、板金加工と多岐にわたっています。
さらに、事業推進の共通課題への対策として、「製造現場における無線通信技術の導入ガイドライン」(今回紹介するガイドライン)と「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」の2つを作成しました。
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