産業メタバースで変わりゆく都市づくり、進むスマートシティ構築の未来(後編):デジタルツイン×産業メタバースの衝撃(6)(4/6 ページ)
本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。
都市3Dデータで新たな価値提供を行う渋谷
現実空間の“双子”を再現して可視化やシミュレーションなどに重きを置くデジタルツインに対して、都市のメタバース活用は「カルチャー」に重きが置かれる。いかにその住民や、その地域に集う人々の文化、活動、生活をデジタル上でより拡張できないかといった観点で取り組みが進む。
以下ではKDDIや、渋谷のさまざまな社会的課題の解決や未来像のデザインに向けて産官学民で連携した組織である渋谷未来デザインが主導する、「バーチャル渋谷」の取り組みについて触れたい。
バーチャル渋谷は渋谷区が公認しているメタバース配信プラットフォームだ。後述するClusterを通じて、スマートフォンやPC、VRヘッドセットなど幅広いデバイスから参加できる。
この取り組みは、2019年ごろからKDDIや渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会など70以上の企業が進めた「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」が土台になっている。渋谷のストリートカルチャーや、ファッション、アートなどのアジア、世界に誇る文化をデジタル技術で発信することが取り組みの背景だ。
当初はAR技術などを拡張して、リアルな場としての「渋谷」を拡張する施策を進めてきた。これがコロナ禍でリアルの場の活用が困難となった中で、水面下で検討していたデジタル上での渋谷をフィールドとする計画が前倒しされる。そうして立ち上がったのがバーチャル渋谷だ。
そのため、ミラーワールドとしてのデジタル世界ではなく、カルチャーやコンテンツIP主導の新しい渋谷の在り方や新しい渋谷の文化、価値を提示していくことに力点が置かれている。デジタルでの新しいカルチャーと、渋谷の実際の都市カルチャーを連動し拡張させていくことが、都市連動型メタバースの目指すコアの価値だ。
コロナ禍をはじめデジタル上での新たなハロウィーンの楽しみ方を提示
バーチャル渋谷では、メタバース空間上の渋谷を「攻殻機動隊」などIPの世界観でジャックする取り組みや、スポーツ観戦やカウントダウンイベント、音楽ライブなど多様なイベントが開催されている。
中でも注目されたのが、ハロウィーンフェスだ。従来コロナ以前では、ハロウィーンの期間には多くの人が仮装をして渋谷に集まる「文化」が生まれていた。これらがコロナ禍で現実にハロウィーンにコスプレをして集うということができない中で、メタバース空間のバーチャル渋谷でハロウィーンを楽しめる仕掛けを提供したのだ。仮装したアバターで各自交流をするとともに、きゃりーぱみゅぱみゅなどのアーティストのライブや、アニメなどIPと連携した多くのイベントがメタバース上で開催された。
世界中からのべ55万人がつどい、コロナ禍で新しいハロウィーンの文化を創った。人流が回復した2023年は、渋谷の街での路上飲酒や大量のごみの放置が課題視され、リアルでの渋谷のハロウィーン実施を見送る形となったが、同年のハロウィーン期間中に実施したバーチャル渋谷のイベント「Stay Virtual―リアルを超えてつながろう―」には、コロナ禍を超えるのべ110万人が参加した。
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