唯一無二の「つよつよ神棚」 木工芸を学ぶ学生が目指す自分だけのモノづくり:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(16)(4/4 ページ)
本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は趣向を変えて、京都伝統工芸大学校で伝統工芸の技術や知識を学ぶ吉乃さくらさんに、モノづくりにかける思いについて聞きました。
「現代の信仰の形」をテーマに制作した「つよつよ神棚」
「つよつよ神棚」 について
現代における信仰の形をテーマにした作品。「サブカル(サブカルチャー)」と、テレビや映画など大衆的に楽しまれているメインカルチャーの逆転が現実となりつつある現代では、信仰の対象や形も変化していると考えています。
サブカルチャーの輝きは、メインカルチャーである宗教に代わって、私たちの世代の心の根底を照らしてくれる神になり得るのではないかと信じてこの神棚を製作しました。(吉乃さん)
――この作品はどんな着想を得て作られたのですか?
吉乃さん カフェのアルバイトで黙々と作業をしているときやお風呂に入っているときなど、日常生活のふとした瞬間にアイデアが生まれることがあります。最初に浮かんだのは、「エレクトリック神棚」という言葉です。この言葉をどういった作品で表現できるだろうか?と考えてできたのがこの作品です。
――作品のこだわりや、この作品から伝えたいことを教えてください。
吉乃さん もともと、ボーカロイドなどのサブカルチャーの世界が大好きでした。「自分ならその世界をどう表現するか?」という視点で作りました。背景には、辞書から引用した「信仰」や「サブカルチャー」の言葉の意味を記載しています。
辞書に書いてある定義と人々の認識にはギャップがあるし、これらの言葉には、人それぞれが自分なりの意味を持っていると思います。そんな言葉ともう一度向き合い、「あなたはどう思うのか?」という質問を投げかけたかったという意図があります。
中央にあるQRコードは、吉乃さんのリットリンク(SNSやブログを1つのページにまとめるサービス)につながっている。実在する御札のハンコのデザインを模してQRコードを取り入れることで、サブカルチャー的な表現を試みたのだそう[クリックして拡大] 提供:吉乃さくらさん
中央に書いている「闇照大神」は、この世界を生き抜いていくために活力をくれるサブカルチャーのことを表現しています。日本の神様が天照大神なのであれば、サブカルチャーの神様は闇照大神なのかなと。今日の夜に推しのインスタライブがあるから1日頑張ろうとか、明日発売の推しのグッズが欲しいから頑張ろうといった、推し活がくれる生きがいは現代の新しい信仰の形でもあると思うんです。
正直、こういったセンシティブなトピックで作品を作ることにためらいもあり、批判をされるのではないか?と心配になることもありました。でも、勇気を出して作品を作り、満足のいく形で完成させることができてよかったです。次回の展示は卒業制作の作品となりますが、その制作を今からとても楽しみにしています。
私にしか作れない「かわいい」を追求し、変わらない安心感を届けたい
――現在、就職活動中とのことですが、今後の展望について教えてください。
吉乃さん まずは、しっかりと学校生活をやり切りたいです。自分の不器用さに焦ることもありますが、1つ1つの課題や作品に丁寧に向き合いたいと思います。細かいことはあまり決めていないのですが、これまで通り自分が思う「かわいい」を追求し、自分にしか作れないモノを作り続けていきたいです。あとは、作りたいモノを突き詰めていくのと同じくらい、世の中のニーズに触れる機会を持つことも大事だと思っています。そういった人の思いに寄り添えるような場でお仕事ができたらいいなと思います。
編集後記
冒頭で書いた通り、今回の取材のきっかけは、京都伝統工芸大学校卒業/修了制作展です。その場でひときわ存在感を放つ吉乃さんの作品を見たとき、「これを作った人の思いや作品の背景に迫りたい!」と、取材依頼をさせていただきました。
作品から感じた通り、吉乃さんはとてもエネルギッシュな方で、さまざまなことに挑戦しながら、自分らしいモノづくりを追求する姿が印象的でした。吉乃さんの今後の作品にも注目したいと思います。学びたい分野と自分が大好きなことを融合させ、唯一無二のモノづくりをされている吉乃さんを、これからも応援しています!
(ものづくり新聞記者 佐藤日向子)
著者紹介
ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/
「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。
2023年現在、160本以上のインタビュー記事を発信し、町工場の製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。
編集長
伊藤宗寿
製造業向けコンサルティング(DX改革、IT化、PLM/PDM導入支援、経営支援)のかたわら、日本と世界の製造業を盛り上げるためにものづくり新聞を立ち上げた。クラフトビール好き。
記者
中野涼奈
新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。
佐藤日向子
スウェーデンの大学で学士課程を修了。輸入貿易会社、ブランディングコンサルティング会社、日本菓子販売の米国ベンチャーなどを経て、2023年からものづくり新聞にジョイン。
木戸一幸
フリーライターとして25年活動。150冊以上の書籍に携わる。2022年よりものづくり新聞の記事校正を担当。専門分野はゲームであるが、かつては劇団の脚本を担当するなど、ジャンルにとらわれない書き手を目指している。
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