溶接部の疲労強度(その1):CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(10)(5/5 ページ)
金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第10回は「溶接部の疲労強度」について取り上げる。
図19にCAE解析結果を示します。ここから、のど断面の応力を抽出してテキストファイルで出力してExcelで平均値を求めました。これを図20に示します。のど部断面の第一主応力の平均値は32.9[MPa]となりました。
次は止端部応力です。公称応力は以下となります。
止端部応力はホットスポット応力で代用します。図19のA線上の応力をテキストファイルとして出力し、Excelに取り込みます。これを図21に示します。
止端部では、強烈な応力集中が発生しています。板厚の0.5倍の応力と1.5倍の応力から直線を引いて止端部の応力を求めるのですが、今回はカーブフィットした直線からホットスポット応力を求めましょう。ホットスポット応力は189.7[MPa]ですね。
今まで述べたことを表1にまとめました。
のど断面、止端部ともに手計算による公称応力とCAE解析による応力がよく一致しました。前述した方法で、CAE解析で公称応力を求めることができるのではないかと考えます。図12のような構造物の場合、手計算では応力がとうてい計算できないのですが、CAE解析であれば公称応力が求まり、溶接部の強度判定ができると思います。若いころ、いろいろな仮定を設けて無理やり応力を手計算していましたが、それよりはましだと思っています。のど断面の応力計算方法は参考にできる文献がなかったので、実際に行うときは安全率を高めにしてください。
最後に、CAE解析モデルの注意点を述べます。溶接構造物では構成部品は必ず複数になるので、部品同士の接触状態を定義する必要があります。CAEソフトは自動的に部品同士の接触を検出し、固着の接触要素が生成されます。例えば、図22のような接触要素が何もせずに生成されます。ここで固着なしと表記した接触要素は「削除」するか「抑制」する必要があります。これらが生きたまま解析すると、ルート部の応力がかなり小さく計算されてしまいます。
溶接の強度評価はホットスポット応力を使うので、CAEソフトには応力値をテキストファイルとして出力する機能が必須となります。これから3D CADを導入される方の参考になれば幸いです。
次回は、応力レンジの計算法と破壊力学についてウンチクを述べます。 (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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