データ活用プロセス自体にも効率化の観点を 製造業の生産性を上げるためのDX:製造DXの未来とデータ活用の可能性(後編)(2/2 ページ)
製造業でのデータ活用の重要性は各所で指摘されています。ただ、こうした活用で実際に生産性を高めていくには、データ活用それ自体の効率性向上も図っていかなければなりません。今回はこの点を解説していきます。
プロジェクト管理のデータ活用効率化で生産性向上
データ活用を効率化することで、大幅な生産性向上につなげた国内大手エンジニアリング企業の事例を紹介します。
大規模施設建設のプロジェクト管理では、膨大なデータを扱う必要があります。大型設備では、管理対象となる部品の種類と点数が膨大な量に上ります。設計データベースには数万ものテーブル、数万から数百万ものレコードが蓄積されています。作業に関わる人員も大変多くなりますが、これも細やかに管理しなくてはなりません。
プロジェクトの段階ごとに、進行管理のためにレポートを作成する必要があります。社員たちは膨大に膨れあがったデータベースからデータを抽出し、ExcelやAccessを用いてデータ加工していました。ここに多大な時間が費やされていました。
膨大なデータベースからデータを抽出するには、単純な範囲指定や条件設定だけでは不十分です。SQLを用いてデータを結合し、条件に合ったレコードからデータを抽出しなければなりませんが、簡単ではありません。抽出したデータも、CSV形式で出力した上で、ExcelやAccessに読み込ませて加工する必要があります。どんなにツールを使い慣れていても、手作業でデータ加工するのは大きな作業負担になっていました。
そこでこの企業では、データの抽出と加工を効率化するためにデータ分析自動化ツールを採用しました。このツールはデータ分析におけるデータ準備、前処理、分析、共有まで一連の工程をカバーしているため、データベースからのデータ抽出と加工にかかる作業をこのツールで置き換えることができます。また直感的なユーザーインタフェースで操作できるため、作業のハードルを下げ、多くの社員がセルフサービスでデータ活用に携われるようになります。
何よりもデータ分析自動化ツールを採用することで、データの抽出から加工に関わる作業を大幅に効率化できました。それまでSQLとExcelやAccessで長時間かかっていた作業が数十秒で完了できるようになったのです。
データ件数が多すぎるとExcelやAccessでは扱えないという場面もありますが、データ分析に特化したツールを用いればそうした制限も撤廃することができます。現在その企業では数百種類ものワークフローを作成し、さまざまなレポートを短時間で作成しています。ワークフローで自動化することでミスも減らすこともできて、属人化も排除できるようになりました。
少し前までは機械学習などのAI(人工知能)などにおいても、データを活用するには各種システムからデータを収集して前準備を行うなど、高度なスキルや多くの労力が必要でした。しかし近年ではローコード/ノーコードでシステム連携し、データ抽出条件を手軽に設定できるツールがあります。こうした効率化のためのツールもぜひ活用してください。データ活用のアイデアは優れていても、工数がかかりすぎてしまっては元も子もありません。
操作性に優れたツールを使うことで、データ分析作業の効率化だけではなく、データ活用できる人員の裾野を広げることができます。多くの人が直接データ活用に関わることができれば、より多くの視点で事業や業務を見ることができて、より豊かなアイデアが生まれるかもしれません。
いま生成AIが登場し、データ活用のレベルは新たな段階へと踏み入ったのかもしれません。しかしBIツールを使うデータ分析であろうと、機械学習だろうと、生成AIだろうと、どのテクノロジーを使うかという問いは本質駅な議論ではありません。
大事なことは、ビジネスに大きな影響を与えるような変革をいかにもたらすかです。そのための自由な発想力とリテラシーが、これからますます重要になります。
アルテリックス・ジャパン合同会社
カントリーマネージャー 宇野林之
日本IBMのソフトウェア事業のソリューションスペシャリストや、SAS Institute Japanの営業統括の責任者などを経て、2023年にAlteryxに入社。20年以上に渡り、データ活用とソフトウェアのビジネスに従事する。
アルテリックス・ジャパン合同会社
リードセールスエンジニア 新郷美紀
前職のNECではビッグデータやAIに関するシニアソリューションアーキテクトとしてさまざまなグローバル企業とのコラボレーションをリードし、2023年7月にAlteryxに入社後は、リードセールスエンジニアとして金融ユーザーを中心にソリューションを提案に従事する。
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