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なぜ止まらないラインは悪なのか、老舗総合無線機メーカーが磨くモノづくり力メイドインジャパンの現場力(3/3 ページ)

無線機メーカーのアイコムは会社設立60周年を迎えた。本稿では同社のこれまでの歩みとともに、全量を生産する和歌山アイコムのモノづくり力に迫る。

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ロボットによる自動化を推進、5Gも工場内で活用

 まず2016年に取り組んだのが調整検査の自動化だ。調整試験とは、測定機に電源、アンテナ、マイク、イヤホンをつなぎ、周波数を変えながらそれぞれの周波数での受信感度、送信出力、スプリアス(通信に不要な電波の周波数成分)が仕様に合致するかを検査するものだ。ロボット導入前までは、8台の測定機にそれぞれ人が張り付き、検査を行っていたが、ロボット導入後は測定機3台に減らし、なおかつ無人で行えるようになった。

 2018年には、これまで人が行っていたイヤフォン端子とマイク端子の挿入にもロボットを導入した。表面実装を終えた基板を供給すると、ロボットがイヤフォンジャックとマイクジャックを取り付け、さらにロボットによってはんだ付け、基板分割までを行い、完成基板となって排出される。

 2019年には、生産量の多い特定小電力トランシーバーや業務用トランシーバーの本体組み立てにもロボットを導入。その後、ロボットを追加して2ラインでロボットによる組み立てを行っている。その他、工場内は7台のAGVが走行し、自動ドアやエレベーターとの連携も行いながら、材料や基板、完成品の搬送を行っている。


垂直多関節ロボットが供給し、2台の双腕ロボットが組み立てを行う[クリックで拡大]

垂直多関節ロボットが組み立てを行うライン[クリックで拡大]

工場内を走行するタクマ精工のAGV[クリックで拡大]

 和歌山アイコムでは、アイコムの5Gゲートウェイ「IP50G」を導入し、通信キャリアの5G通信を生産性の向上などに活用している。

 その1つが、大雨センサーと5Gを連携させた監視システムの構築だ。出荷時にはトラックに積み込むため、出荷場に梱包された製品を並べておく必要がある。ただ、突然の豪雨などによってぬれてしまう可能性があった。そこで、カメラや温湿度、気圧センサーを入れた百葉箱を設置して天候を監視。気圧の低下など雨の予兆を捉えると、オフィスに通知し、カメラが捉えた出荷場の映像を表示する。これによって雨が降る前に出荷場に置かれた製品にカバーをかけたり、屋内に戻したりといった対応が取れるようになった。映像も含めた大容量データ通信が可能な5Gの利点を活用した。


出荷場に設置された百葉箱[クリックで拡大]

データはタブレット端末でも確認できる[クリックで拡大]

 作業分析システムの構築にも5Gを利用している。作業者が作業している様子をカメラで撮影し、その映像データを5Gゲートウェイを通じてAIが搭載されているサーバに流すことで、AIが作業者の骨格を認識して作業内容を分類し、ボトルネックになっている作業を見つけられる。ここで5Gを使うメリットは、可搬性を持たせられる点だ。動画のデータ量は大きくなるが、5Gを通すことで工場のネットワークに影響を与えずに、フレキシブルに設置することができる。

 ピッキング台車のサーバ接続ネットワークとしても5Gを使っている。生産計画に応じて倉庫内で部品を台車にピッキングし、それぞれの工程に配膳する。その際に端末で行う部品の読み取りなどは、アイコム本社の管理サーバとつないでデータを送っている。従来用いていたWi-Fiではアクセスポイント間で干渉を起こすことが課題になっていたが、5Gへの置き換えによって問題を解消した。

 既存のネットワークを介さず、別ルートでVPN(仮想プライベートネットワーク)を介して通信することで、既設のラインに影響を与えることなくセキュアにデータのやりとりができる。

 和歌山アイコム 代表取締役社長の田中誠一郎氏は今後の設備投資に向けて「ロボットで組み立てるような出荷台数の多い機種は限られている。今後は人と人の間にはんだ付けロボットやねじ締めロボットを入れて、誰が入ってもラインが回るような形にしていきたい」と語る。

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