なぜ止まらないラインは悪なのか、老舗総合無線機メーカーが磨くモノづくり力:メイドインジャパンの現場力(1/3 ページ)
無線機メーカーのアイコムは会社設立60周年を迎えた。本稿では同社のこれまでの歩みとともに、全量を生産する和歌山アイコムのモノづくり力に迫る。
無線機メーカーのアイコムは会社設立60周年の節目となる2024年7月16日、主力生産拠点である和歌山アイコムの有田工場(和歌山県有田川町)を報道陣に公開した。本稿では、アイコムのこれまでの歩みと、全量を生産する和歌山アイコムのモノづくり力に迫る。
世界100カ国超に輸出するグローバル無線機メーカー
1964年設立のアイコムは、陸上用や海上用、航空用の無線機やアマチュア無線機などの開発、製造を手掛ける総合無線機メーカーだ。祖業はアマチュア無線機の製造で、同社 代表取締役会長の井上徳造氏が、自宅の庭で起業したのが淵源となっている。
日本では高度成長とともにアマチュア無線ブームが起こり、1975年には無線利用の免許状を許可されたアマチュア無線局数が30万を超えて米国を抜き世界一となった。同社が1980年に発売したアマチュア無線機「IC-2N」も大ヒット商品となったという。映画「私をスキーに連れてって」で使用された影響などもありブームは衰えず、1995年には日本のアマチュア無線局数は136万4316に達して人気のピークを迎えた。
その中でアイコムがアマチュア無線機から業務用無線機へ転換するきっかけの1つとなったのが1998年の米国国防総省からの受注だ。その後、世界各国の政府機関や国際連合、国内の自治体、防衛省、総務省などの行政機関にも導入実績ができ、世界100カ国以上に製品を輸出している。2016年に発売されたアマチュア無線用のトランシーバー「IC-7300」は2024年1月時点で累計出荷台数が10万台を突破、そのうちの8割が海外向けとなっている。
近年は携帯電話回線を利用するIP無線機や、携帯電話回線と無線LANでつながるIP電話システムの開発にも着手。災害時に強い携帯キャリア2回線を利用できる機種や、内線/外線のできるIP電話にトランシーバー機能を搭載した機種なども展開するなど、製品群を拡充している。
新機種の開発によってIP無線機の定期的な通信料収入などのストックビジネスが業績を底上げしており、2024年3月期の売上高は過去最高の371億円、営業利益は34億円を記録し、「中期経営計画2026」の指標を1年前倒しで達成。その後、中計2年目以降の経営目標を上方修正している。
売り上げの内訳は、陸上業務用無線機が48%と半数近くを占め、アマチュア用無線機が16.2%、海上用無線機が10.9%と続く。地域別の構成は、日本が30.5%、北米が36.6%、欧州が16.8%、アジア/オセアニアが16.1%と7割が海外からの売り上げだ。
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