遺伝的アルゴリズムを用いてフォノニック結晶ナノ構造の自動設計技術を開発:組み込み開発ニュース
東京大学 生産技術研究所は、遺伝的アルゴリズムを用いて、弾性波の伝播特性を制御するフォノニック結晶ナノ構造を自動設計する技術を開発した。希望する特性を最大化する構造を、高速かつ自動で見いだせることを実証した。
東京大学 生産技術研究所は2024年7月4日、遺伝的アルゴリズムを用いて、弾性波の伝播特性を制御するフォノニック結晶ナノ構造を自動設計する技術を開発したと発表した。
フォノニック結晶は、弾性波、すなわち振動(フォノン)の伝播特性を制御できる周期構造だ。人工的なナノ構造が周期的に繰り返し形成されており、こうした構造が材料のフォノン特性を変化させる。
今回の研究では、弾性波の伝播のしやすさが方向によって異なる「異方性」を最大化するため、自動設計アルゴリズムを開発した。まず、厚さ200nmのシリコン膜に、周期的な穴を形成した2次元フォノニック結晶構造を設計。弾性波の伝播を禁止するバンドギャップと呼ばれる周波数帯域を広くし、一方向にのみ弾性波を伝搬しやすい構造とするために、最適な穴の大きさと形状を探索するよう指示した。
フォノニック結晶の構造最適化には、ダーウィンの進化論を模倣した自動進化プロセスを用いた。フォノニック結晶の構造を遺伝子と見なし、交配とランダムに起こる突然変異を通じて、望ましい特性をより強く示す世代へと設計を進化させる。
実験では、400世代を経過したころ、極めて広いバンドギャップを持つフォノニック結晶構造が設計できた。フォノンをプロットしたフォノン分散を見たところ、y方向で広範な周波数帯域のバンドギャップが得られた。つまり、この構造が強い異方性を持つことを示している。
この設計で得られた構造をシリコン膜で製作し、フォノン分散を測定した結果、一方向のみに大きなバンドギャップが形成されていることを確認した。これらの成果から、開発した手法が希望する特性を最大化する構造を高速かつ自動で見出せることを実証した。
従来のフォノニック結晶は、人間が想像し得る単純な構造になりがちだったが、開発した手法では最適構造の探索範囲を広げることができる。高感度センシングや弾性波素子に加え、将来的には量子科学分野にも応用できるという。特にスマートフォンの表面弾性波素子など、通信分野への貢献が期待される。
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