なぜB2B製品にデザインが必要なのか? 競争優位性を高めるデザインの活用法:設計者のためのインダストリアルデザイン入門(11)(3/6 ページ)
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は、これまであまり注目されてこなかったB2B製品におけるデザインに着目し、その効果や重要性、そして競争優位性向上のためのデザイン戦略について解説する。
2.B2B製品におけるデザインの役割
B2B製品の顧客体験向上に関して、「デザインがどのような役割を担うか」「デザインを取り入れて何をすべきか」を具体的に解説していきます。
- 2-1.ユーザビリティ
- 2-2.視覚的魅力
- 2-3.共感/信頼感
- 2-4.ブランドロイヤリティー
2-1.ユーザビリティ
B2B製品において、ユーザビリティは顧客満足度に直結する重要な要素です。デザインを活用すれば、製品の使いやすさが改善され、ユーザーのストレスを軽減するだけでなく、業務効率の向上や誤操作によるリスク低減が図れます。
デザイン業務では、例えば、以下の観点でユーザビリティの具体的な検討が行われます。
- 使いやすさ
- 効率性
- 一貫性
- エラー対策
- 人間工学
- ユニバーサルデザイン
使いやすさ
製品はたとえユーザーが初めて使用する際でも直感的に操作でき、学習コストが低くあるべきです。特に機器操作を伴うB2B製品ではボタン配置やインタフェースデザインが分かりやすく、一目で使い方が理解できる必要があります。また、部品として使用される製品でも使用時の組み付けやすさが求められます。
効率性
業務用機器など、機器操作が伴う製品ではユーザーの操作時間が要求スペックとして定義されることがあります。これに応えるには、ユーザーが少ない手順で作業を完了できるようにする必要があります。無駄な操作や時間を省き、生産性を向上させるデザインが求められるのです。
一貫性
同一製品はもちろん製品横断でも、ボタンやアイコン、用語などについては、一貫したデザインが使用されていることが推奨されます。一貫性の担保はユーザーの混乱を防ぐだけでなく、ブランドに対する信頼感の獲得にもつながります。
エラー対策
B2B製品ではユーザーが誤った操作を行わないように、誤操作防止策やシステムによる適切なフィードバックの提供が必要です。また、エラーが発生した場合にも、簡単に元の状態に戻せるようにデザインされている必要があります。
人間工学
特に人が長時間使用するような製品では、ユーザーの身体に負担をかけない形状や動作をデザインする必要があります。形状や動作だけでなく、視覚や聴覚などさまざまな観点で人間に適したデザインが求められます。
ユニバーサルデザイン
製品によっては年齢、障害、言語、国にかかわらず、全てのユーザーが利用しやすいデザインが求められます。開発する製品がいつ、どこで、どんな人の利用を想定しているのかを明確にし、それに則したデザインをする必要があります。
以上、ここで挙げたような観点でユーザビリティをデザインすることは、結果として、顧客満足度の向上、離脱/解約率の低下、そして競争優位性の確保につながる重要な取り組みです。
2-2.視覚的魅力
デザインといえば、意匠性やスタイリングといわれるような、視覚的魅力を連想する人が多いと思います。顧客に対する製品の第一印象を与えるのは、ほとんどの場合が視覚的魅力であり、コンシューマー向け製品はもちろん、B2B製品においても顧客の購買意欲に影響を与えます。
工業製品の視覚的魅力は主に以下の要素で構成されており、視覚的魅力をデザインする際にはこの全てが検討の対象になります。
- 形状
- 色彩
- 表面仕上げ
- 素材
- 表記(グラフィックデザイン)
形状
製品の形状は、機能性と美観の両方を兼ね備えるようデザインされます。各部位の「大きさ」「比率」「造形の流れ」「鋭さ」などにより、同じ機能を持った製品でも視覚的印象は大きく変化します。また、適切な形状は、ターゲット市場やユーザーによりさまざまですので、顧客に合わせた配慮が必要となります。
色彩
製品の色彩は製品の視覚的印象に大きく影響します。色彩は製品の用途、各部位の機能、ブランドイメージなどを考慮し選定されます。特にB2B製品においては、「安全」「注意」「危険」などを促す色を使用する際の配慮や色の心理的効果の考慮が必要です。例えば、病院などの落ち着いた環境では派手できらびやかな色はあまり好まれません。また、大手メーカーでは製品に使用できる色が塗料の型番で限定されるなど、厳格な管理が行われる場合があります。
表面仕上げ
色彩だけでなく、表面仕上げによっても製品の視覚的印象は大きく変わります。光沢仕上げ、マット仕上げ、テクスチャー仕上げなどの選択肢がありますが、目の粗さや加工方法は素材によってさまざまです。樹脂素材であれば金型のシボ番手、金属素材であればブラストの番手などで指示を行います。また、表面仕上げは、製品のメンテナンス性や耐久性にも影響しますので使用時の負荷が高いB2B製品では、美観と機能性のバランスが重要になります。
素材
素材選定も視覚的印象に影響します。ただし、素材は視覚的印象だけでなく、製品の質感や耐久性、機能性に影響するため、選定の際には設計担当者と認識を合わせる必要があります。例えば、高級感を演出するためにアルミニウムやステンレスを使用することや、自然や設置環境との調和を鑑みて木材を使用する場合などがありますが、いずれもコストや耐久性などの懸念があるため、いつでも、どこでも使えるというわけではありません。
表記(グラフィックデザイン)
工業製品にはブランドロゴをはじめ、操作部、ラベル(デカール)、定格銘版、マニュアルなど、さまざまな場所でグラフィックデザインが使用されます。操作部にグラフィックを用いる際は、明確で理解しやすいアイコンやシンボルを使用することはもちろん、使用するフォントの種類、サイズ、色、配置の配慮が必要です。一つ一つのグラフィックを丁寧にデザインすることで、製品の品質は格段に向上します。また、ブランドの一貫性を保つためには、グラフィックに関するガイドラインを策定し、これに従うことも重要です。
視覚的魅力を向上するために考えなくてはならないことは少なくありませんが、これらの要素を綿密にデザインすることで、顧客の心をつかむ、視覚的に魅力のあるB2B製品を実現できます。また、視覚的魅力は単に購買のきっかけを生むだけでなく、顧客との長期的な関係構築にも貢献します。
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