なぜB2B製品にデザインが必要なのか? 競争優位性を高めるデザインの活用法:設計者のためのインダストリアルデザイン入門(11)(2/6 ページ)
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は、これまであまり注目されてこなかったB2B製品におけるデザインに着目し、その効果や重要性、そして競争優位性向上のためのデザイン戦略について解説する。
1-3.デザインの活用が顧客体験を向上する
顧客体験には、例えば以下のような体験が含まれます。
- ユーザビリティ:製品をどれだけ容易かつ直感的に操作できるのか
- 視覚的魅力:製品の見た目がどれだけ美しく、印象的であるのか
- 共感・信頼感:製品に対して顧客がどれだけ共感による喜びや信頼を感じるか
- ブランドロイヤリティー:製品に対して顧客がどれだけ愛着や忠誠心、継続的な利用意欲を感じるか
これらはいずれも製品のスペックシートには記載されませんが、顧客は体験を通じてこれらを製品の付加価値として受け取っています。
そして、デザインは顧客体験を向上させるための強力なツールとなり得ます。なぜなら、デザインは製品のユーザビリティ、視覚的魅力などを含む、顧客が製品を通じて得られるさまざまな体験に影響を与えるからです。
例えば、複雑な操作を伴う業務用機器を開発するのであれば、デザインは操作の簡略化や操作部の視認性の向上を実現します。そして、ユーザーはストレスなく機器を効率的に使用できるようになり、ひいては生産性の向上につながります。
また、医療機器を開発するのであれば、デザインは医療環境に配慮した視覚的な美しさはもちろん、操作に不慣れな医療従事者でも安心して使用できる操作性を実現し、患者への負担を軽減することが可能です。
このように、デザインはそれぞれの製品やサービスの特性に合わせて、顧客体験を向上させるための重要な役割を担います。
1-4.なぜB2B製品のデザインは軽視されるのか?
一方、筆者自身の経験に基づくと、デザインはコンシューマー製品に用いられるものという認識にとどまり、B2B製品とデザインがひも付かない人々がまだ多いように感じます。では、なぜこのような認識の人が多いのでしょうか。
B2B製品において、デザインが軽視されてきた背景には、以下のような要因が考えられます。
- 投資対効果が見えにくい
- エンドユーザーとの距離が遠い
- エンジニア主導の製品開発
- 短期的な収益目標
- デザインリテラシーの欠如
投資対効果が見えにくい
デザインの効果を短期的な売上やコスト削減などの数値で置き換えることは難しく、具体的な成果として見えにくいことが多くあります。特に、営業活動から販売までの因果関係が複雑なB2B分野ではその傾向が顕著です。その結果、デザインが直接的に業績に結び付くかどうかが判断しづらく、投資対象として敬遠されることがあります。
エンドユーザーとの距離が遠い
B2B製品はしばしば複雑な販売チャネルを通じて流通するため、バリューチェーン上、メーカーとエンドユーザーとの距離が非常に遠いことがあります。この場合、最終ユーザーの使用体験よりも販売代理店や卸売業者のニーズが優先されることがあり、エンドユーザーに対して提供する付加価値を優先するデザインが直接的な購入決定要因になりづらいとされています。
エンジニア主導の製品開発
技術開発によって事業を拡大してきた多くのB2B企業では、製品開発がエンジニア主導で行われるため、機能や性能など技術的な側面が最優先され、デザインやユーザー体験が後回しにされることがあります。エンジニアはその責務分担上、仕様書に明示される機能実装や性能に重きを置くため、仕様書に記載されにくいデザインの優先度を低く設定しがちです。
短期的な収益目標
特に大口の取引を行うB2B企業では、目の前の取引が優先され、中長期的に効果が得られるデザインへの投資が後回しにされることがしばしばあります。デザインへの投資は事業全体のブランド構築や顧客満足度向上を中長期的に実現できますが、短期的にはその効果が見えにくいことがあります。
デザインリテラシーの欠如
B2B企業の多くはデザインの重要性やその効果について十分に理解していない場合があります。そもそも、社内に製品開発に関与するデザイン部門や人材を配置していない場合も多く、企業全体としてデザインがどのように製品の競争力を高めるかについての知識や経験が不足している傾向があります。
しかし、先に述べたように近年はこれらの状況も変化しつつあります。顧客体験の重要性や企業ブランドの価値が注目されるようになったことで、B2B製品においてもデザインの重要性が見直され始めました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.