なぜB2B製品にデザインが必要なのか? 競争優位性を高めるデザインの活用法:設計者のためのインダストリアルデザイン入門(11)(4/6 ページ)
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は、これまであまり注目されてこなかったB2B製品におけるデザインに着目し、その効果や重要性、そして競争優位性向上のためのデザイン戦略について解説する。
2-3.共感/信頼感
B2B製品のデザインを通して、ブランドのメッセージやこだわりを一貫して提供できれば、顧客の共感や信頼度を高めることが可能です。製品の機能性を向上させるだけでなく、顧客の感情に訴え掛けることは、他社製品と差別化するための有効手段となり得ます。
製品のメッセージやこだわりを伝える際には、以下のような手段があります。
- ブランドストーリーの構築
- 細部へのこだわり
- 一貫したブランドイメージ
- 透明性とコミュニケーション
ブランドストーリーの構築
製品自体はもちろん、Webサイトやカタログ、動画などのメディアを通じて、製品やブランドの背後にあるストーリーを明確に伝えることで、顧客に対して製品や企業の価値観、使命感を共有できます。これには、企業の歴史や創業の背景、製品開発の過程でのエピソードなどが用いられます。B2B製品であろうと、顧客は機能だけに着目するのではなく、その背後にある企業の哲学や価値観に共感し、製品の導入を推し進めるのです。
細部へのこだわり
製品デザインの細部へのこだわりは時に、顧客の信頼感向上に大いに貢献します。工業製品であれば「表面仕上げ」「素材の質感」「操作のぬるっと感」などは、リピーターになり得るロイヤルユーザーの満足感をさらに高めます。例えば、精密機器であれば、部品の精度や耐久性、組み立ての丁寧さなどが顧客に伝われば、製品への信頼感と満足感を高めることにつながります。
一貫したブランドイメージ
形状に表れる造形思想や色彩、表記などのポリシーを統一し、一貫したブランドイメージを保つことは、顧客に伝えたいメッセージの発信力をより強くします。また、一貫したブランドイメージは顧客の製品や企業に対する認知を高めることにも貢献し、購買時の選択肢として想起させやすくする効果が期待できます。B2B産業機器メーカーの事例としては、ファナックが挙げられます。同社は、象徴的な黄色を産業用ロボットや工作機械、工場全体にまで徹底して使用しています。これにより「ファナックイエロー」として世界的に認知され、高いブランド価値を確立しています。
透明性とコミュニケーション
製品開発のプロセスや使用される素材、製造方法などに関して透明性を保ち、顧客と積極的にコミュニケーションを取ることも、製品の信頼感を高め、長期的な関係を築くことに貢献します。B2B製品における顧客とのコミュニケーションは、展示会や顧客訪問、Webサイトやウェビナーなど、オンライン/オフライン問わずさまざまな場で行われます。顧客とのコミュニケーション設計は、製品それ自体のデザインではありませんが、その場で使われるツールはデザインされているべきであり、顧客にとって分かりやすく、魅力的な情報提供を可能にする必要があります。
あくまで一例ですが、上記はいずれもデザインが大いに関与できる領域です。製品に対する顧客の共感や信頼感が高まれば、顧客は製品に対して単なる「道具」以上の感情を抱くようになり、それが結果的に顧客満足度の向上につながります。
2-4.ブランドロイヤリティー
“ブランドロイヤリティー”とは、顧客が特定のブランドに対して持つ愛着のことであり、ブランドロイヤリティーの高い顧客を「ロイヤル顧客」といいます。ブランドに対する愛着は、顧客が継続的にそのブランドの製品やサービスを選び、他の競合ブランドに移ることなく利用し続けることに貢献します。つまり、ブランドロイヤリティーは中長期的に企業に利益をもたらす資産ともいえるのです。
ブランドロイヤリティーは先に挙げた「ユーザビリティ」「視覚的魅力」「共感/信頼感」が高まれば自ずと向上します。以下では、ブランドロイヤリティーが高まることで、どのような効果が得られるのかを紹介します。
- 繰り返し購入
- ブランド推奨
- プレミアム価格の支払い
- 拡張製品の購入
- ネガティブな経験の許容
繰り返し購入
ロイヤル顧客は同じブランドの製品やサービスを繰り返し購入する傾向があります。例えば、長年使い慣れた製品の新バージョンがリリースされた場合、ブランドロイヤリティーの高い顧客は使い慣れたインタフェースや機能を高く評価し、新しいバージョンへの移行をスムーズに行うことができます。
ブランド推奨
ロイヤル顧客は、自らの経験を基に他の潜在顧客に対して積極的にブランドを推奨してくれます。昨今では、B2B製品もインターネット上のレビューやソーシャルメディアでの投稿が顧客に参照されますが、ロイヤル顧客はその場にもポジティブな情報を提供してくれます。専門性の高いB2B製品では、既存顧客からの推薦は新規顧客の信頼獲得に大きく貢献します。
プレミアム価格の支払い
ロイヤル顧客は、他社よりも高い価格を自社ブランドに支払う意欲があります。既に製品に愛着を持っている顧客は、新しい選択をするというリスクを嫌い、未知のブランドに切り替えることよりも、使い慣れたブランドの製品にプレミアム価格を支払うことを選択する傾向があるからです。
拡張製品の購入
ロイヤル顧客は、ブランドが提供する新しいカテゴリーの製品やサービスにも積極的に興味を示し、購入する傾向があります。また、今現在、拡張製品のラインアップがないのであれば、ロイヤル顧客の情報から新しい市場や製品ラインアップを拡大する機会を得ることもできます。
ネガティブな経験の許容
ロイヤル顧客は、時折の不満やトラブルに対しても寛容であり、すぐに離れることはありません。さらに、問題が発生した場合でもブランドを信じ、解決に向けた対話を行うことが多い傾向にあります。これは、信頼するブランドの問題解決に向けた積極的な姿勢を示すもので、製品や事業の改善にとっても有益な情報源となり得ます。
まとめると、ロイヤル顧客は、単に製品やサービスを購入するだけでなく、ブランドとの長期的な関係を築き、ブランドの価値を共有する存在です。彼らはブランドの成長に貢献し、企業にとっての貴重な資産となります。そして、企業にとって重要な顧客基盤となり、安定した収益源をもたらします。
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