電池の実験と試験、そして評価……そのプロセスに正しい理解を:今こそ知りたい電池のあれこれ(25)(3/3 ページ)
今回はいま一度初心に立ち返り、主に電池の評価を例にして、「実験」「試験」「評価」、それぞれの意味や目的、重要性について解説していきたいと思います。
それは誤った解釈ではありませんか?
「評価」というプロセスはデータを解釈するプロセスであるともいえます。「実験」や「試験」においては、客観的かつ公平な方法で得られたデータという結果を提示することが重要なのは言うまでもありませんが、「評価」においては、そのデータが提示された背景を考慮し、意味のある方法で解釈することも、また同じく重要です。
データ解釈の重要性を示す代表的な事例に「疑似相関」というものがあります。疑似相関とは、本来因果関係が存在しない事象同士の相関性が見かけ上高いことで、あたかも因果関係があるかのように誤った解釈ができてしまう状態のことを指します。
例えば、「年収」と「血圧」という得られたデータから単純な相関関係だけを見てしまうと「年収が高くなると血圧が高くなる」という因果関係を見出すことができます。この因果関係を鵜呑みにしてしまうと「高血圧のリスクを下げるために経済を低迷させて年収を下げる」というおかしな対策も成り立ってしまいます。この場合、実際には「年齢の増加」が要因となり、「年収」と「血圧」の両方に影響を与えているというのが、正しい解釈になります。
関連リンク:疑似相関って知っていますか?(山口県)
また、データという結果が指し示すのは、あくまでも、その「実験」や「試験」を実施した条件の範囲内で得られた結果です。
先述の通り、電池試験はいわゆるJIS規格などの規格試験と、そういった規格の枠組みから外れた領域の評価をする規格外試験とに大きく分類することができます。このとき、規格試験で評価できる電池特性というのはあくまでも規格の範囲内の事象についてのみです。
もちろんこれは電池に限った話ではありません。世の中には数多くの規格試験がありますが、それらの試験結果からは、その試験条件の範囲内の事象しか判断することができません。製品やシステムの用途や目的によっては、規格試験の枠を超えた領域の試験、いわゆる「過剰試験」や「限界試験」と呼ばれる試験をもって、製品やシステムが有する「リスク」や「限界点」を見極めるための評価を実施する必要もあります。
今回は、主に電池の評価を例にして、「実験」「試験」「評価」のそれぞれの意味や目的、重要性について解説してきました。
「実験」や「試験」において、客観的かつ公平な方法で得られたデータという結果を提示することは重要ですが、そのデータがどのような意図と目的をもって取得されたものであるかという背景を考慮したうえで、意味のある方法で解釈し、「評価」することも、また同じく重要です。
日本カーリットの受託試験部では、今後も受託試験を通して電池技術の発展に貢献できるよう、評価結果と真摯に向き合いながら、日々取り組んでいきたいと思います。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
http://www.carlit.co.jp/
▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/
▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 過去と未来の順序は曖昧で重なり合う? 量子電池の最新研究
息子の高校受験当日もお参りして合格を祈る母。「お祈りに意味があるのは試験が始まる前まで。答案用紙が回収された後に祈っても意味がない」と斜に構える息子。しかし、過去と未来の順序が曖昧になり、過去と未来が重なり合って干渉する……ということも起こるのです。 - 技術者たちの「予見」が、リチウムイオン電池の安全を支えている
今やリチウムイオン電池は私たちにとって身近で欠かせない存在となっています。その一方で、取扱いを誤ると重大な事故を引き起こしかねない危険性を有していることも事実です。今回はリチウムイオン電池の「安全性」について、これまでの連載とは少し視点を変えて考えていきたいと思います。 - リチウムイオン電池で発熱や発火が起きる要因を整理しよう
小型電子機器やモバイルバッテリーの発火事故、ごみ収集車や集積場の火災、電気自動車からの出火など、リチウムイオン電池の普及に伴い、それに起因する発火・炎上はたびたび問題となっています。発熱、発火、爆発といった事故は用途を問わず大きな問題となりかねない事象です。今回は「リチウムイオン電池の異常発熱問題」について解説していきたいと思います。 - コバルトフリーやバイポーラ型、全固体電池などバッテリーの動向をおさらい
約3年にわたるこれまでの連載の中では、電池材料から周辺技術まで幅広く扱ってきましたが、あくまでもコラム公開時点での傾向や兆候のみを示し、今後の動向を注視したいとした内容も度々ありました。今回は、そういった内容のいくつかについて、2024年現在の動向をあらためて確認していきたいと思います。 - 「ラボなら良品率100%」、全固体電池の量産へ着実に進む日産
日産自動車は横浜工場に建設中の全固体電池のパイロット生産ラインを公開した。2024年度中の稼働を目指す。 - 出光は2001年から、トヨタは2006年から「全固体電池」を研究してきた
日頃、新聞やテレビ、インターネットなどを見ていて、「ニュースになるということは新しいものだ、今始まったことだ」と思ったことはありませんか? 放送時間や紙面の文字数に限りがある場合、これまでの経緯が省略されるため、新しくて今まさに始まったかのように見えてしまいます。その例の1つが電池の話題かもしれません。