非車載強化で農場の工場化を目指すデンソー、ミニトマト自動収穫ロボのすごさ:スマートアグリ(2/2 ページ)
デンソーは農業事業への取り組みと、欧州市場に投入する全自動収穫ロボット「Artemy」に関する説明会を開催した。
自動収穫ロボットを欧州市場に投入する背景
Artemyにはセルトンの施設園芸とデンソーの自動化技術が融合している。
もともとデンソー単独でトマト自動収穫ロボット「FARO」を開発していたが、2020年からセルトンとの共同開発に移行した。
当初は自動収穫機能だけだったのに対して、セルトンが得たユーザーの意見などを元に、トマトのウイルス対策として房を切るハサミの自動消毒や自動レーンチェンジ、収穫箱の自動交換、自動移載などの機能を付加していった。
トマトを果柄から切断する際に使うAIには、自動車の画像認識技術を活用している。走行レーンの移動も、車両の周辺監視技術を応用。収穫箱の自動入替は、動力を使わない“からくり”を用いている。
クラウドと接続が可能で、エラーが発生した際にはユーザーのスマートフォンやセルトン、デンソー側にも通知が届き、迅速な対応を図る。
Artemyは2024年5月から欧州で受注を開始した。少子高齢化は欧州でも進んでおり、労働力不足は今後ますます進んでいく。労働力不足の一方で賃金も高騰しており、欧州での省人化ニーズは高まっている。
また、全世界の高度施設園芸の総面積をha(ヘクタール数)で見ると、全世界の5万4000haに対して、欧州は3万5000haと60%強を占めている。欧州の作目別面積では、トマトが28%、続いてきゅうりが23%、パプリカが14%となっており、トマトは房取りが60%だ。
房取りトマトの全作業において収穫は26%で、房取りトマトの中ではミニトマトの収穫時間が最も長かった。そこで、まず房取りミニトマト向けの自動収穫ロボットを欧州に投入することになり、既にオランダで6月に行われた施設園芸に関する展示会「GreenTech 2024」で披露している。
展示会での来場者の関心について、デンソー フードバリューチェーン事業推進部 部長 大原忠裕氏は「競合他社には単独でロボット開発を行っているところはあるが、われわれはデンソーの工業化技術とセルトンの農業ハウスの設計技術や栽培能力を融合させ、共同開発を成功させた点を評価していただいている」と語る。
「今後は、作業では誘引(伸びた茎や葉を支柱に固定する作業)や葉かき(余分な葉を取り除く作業)、品種では中玉や大玉の収穫作業の自動化をグローバルに展開することを検討したい」(デンソー フードバリューチェーン事業推進部 上席執行幹部 向井康)。日本での販売計画は未定となっている。
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