複数の製造業で就活前の学生にアプローチ 具体例で知る「青田創り」の考え方:製造業のシン・新卒採用戦略(4)(2/2 ページ)
近年、学生たちから就職先としての製造業の人気が低下傾向にある。本連載ではその理由を解説し、日本の製造業が再び新卒学生から選ばれるために必要な「発想の転換」についてお伝えする。第4回は、学生に製造業の魅力を伝える青田創りの実践例を紹介していく。
青田創りの価値を高める事前プレゼンテーション研修
しごとーくでは登壇者向けに、事前のプレゼンテーション研修を実施している。プレゼンテーション研修では、複数企業のエンジニアが集まり、伝わるプレゼンテーションの技術を学び、実践し、アドバイスし合っている。こうした準備をしたうえで、プレゼンに臨んでいる。
第3回でお伝えした通り、登壇者が自分のなかで仕事の魅力を整理/確認できていない状態で、学生に魅力を伝えるのは難しい。その場合、登壇してもうまくプレゼンできず、逆に製造業のイメージ低下を招くおそれもある。
筆者は学生にとって価値ある情報を伝えるカギは、事前準備にあると考えている。登壇者が自分の仕事やキャリアの棚卸しを行い、価値や魅力をあらかじめ言語化する事前研修は欠かせない。
三方良しを生み出す青田創りのメリットとは?
しごとーくはこれまでに約6回開催してきた。その経験から、青田創りの活動は参加者全員にとってメリットがある、「三方良し」の取り組みになると感じている。
(1)学生のメリット
学生はしごとーくに参加することで、キャリアや仕事について、複数企業の登壇者からまとまった話を聞くことができる。これほどまとまった話を聞ける機会は、現時点ではまだそう多くないだろう。なおかつ、複数企業の登壇者から多様なキャリア観を学べるので、視野が広がる。
加えて、大学や大学院で学んでいることが、仕事もしくは社会でどのように役立つのかを理解できるため、おのずと目の前の研究へのモチベーションも高くなる。
(2)企業(登壇者)のメリット
登壇者にとっては、自身の成長機会になり、モチベーションの向上が大きなメリットになる。しごとーくの事前研修では、同業他社の登壇者とともに切磋琢磨してプレゼンテーションスキルを高め合う。初めはプレゼンを苦手としていた登壇者が、自らのプレゼンで他者に影響を与えられることにやりがいを感じ、自信を持って学生に語りかけ、大きく成長する姿を幾度となく目にしてきた。
また、自ら仕事の魅力を語ることで、仕事の意義をあらためて認識することができる。その結果、モチベーションやエンゲージメントが高まるのは、企業にとっても喜ばしいことだ。
(3)主催者(大学/学校)のメリット
学生の視野が青田創りによって広がると、学業や働くことへのモチベーションが高まる。主催者である大学/学校側はこうした機会をもっと増やそうと考えて、良い循環が生まれていくだろう。
青田創りを三方良しにする上で大事なのは、企業や主催者の事前準備だ。1回目のイベントが有意義な場にならなければ、2回目はない。登壇者や大学、学校の職員など、大人たちの入念な事前準備こそが「ドミノ倒しの1つ目」になる。
おわりに
これまでと同じ採用活動をしていても、優秀な人材は獲得できない。製造業各社が採用競合という垣根を越えて手を取り合い、業界全体で人材を育成する青田創りがすでに始まっている。働く大人がしっかりと生き様を見せていけば、モノづくりに関心を持ち、製造業の魅力に引かれる若者は増えていくだろう。
次回は、今後に向けた「青田創り」の展望をお伝えする。
エッジソン・マネジメント協会とは
エッジソン・マネジメント協会は、企業を越え、セクターを越えて、産官学連携/共創して優秀な人材を育むことをめざして創設された団体だ。若者の育成に情熱を持つ方や、人材採用に問題意識を持つ方は、ぜひWebサイトで事業内容や活動内容をチェックしてほしい。私たちは、いつでも「青田創り」の仲間を求めている。
筆者紹介
樫原洋平 株式会社リンクアンドモチベーション エグゼクティブディレクター
早稲田大学/同志社大学/大阪公立大学 非常勤講師
早稲田大学 モチベーションサイエンス研究所 招聘研究員
一般社団法人『エッジソン・マネジメント協会』代表理事
一橋大学経済学部卒業後、2003年にリンクアンドモチベーション入社。メガバンク、総合商社、グローバルメーカー、インフラ、ITなど多様な業界の採用コンサルティングに100社以上従事。また、大学教育事業を立ち上げ、産学連携での教育プログラムを開発、実行。早稲田大学/同志社大学などで非常勤講師を務める。2022年にパナソニックグループ、日立製作所、清水建設、京セラ、早稲田大学、同志社大学の産学から理事を迎え、一般社団法人『エッジソン・マネジメント協会』を立ち上げ。著書に『エッジソン・マネジメント』(PHP研究所)
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