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構造で減音するマスク型デバイス 若年層の声から生まれた「Privacy Talk」小寺信良が見た革新製品の舞台裏(31)(4/4 ページ)

マスク型の装着型減音デバイス「Privacy Talk」をご存知だろうか。キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)内の企業内起業で発足した「ichikara Lab」がゼロから企画した製品だが、なぜこうしたデバイスが出来上がったのか。開発の経緯や狙いについて、担当者に話を聞いた。

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実は多いB2B用途の問い合わせ

――この商品、これまでキヤノングループとしても前例がないタイプのものなので、どの事業部で、あるいはどの流通に乗せて売るんだ、みたいな販売戦略決めの難しさがあったと思うんですけど。どのように解決されたんでしょうか。

岩川氏 仰る通り、これまでのキヤノン製品とかなり違うので、今までのカメラとかプリンタのように大手家電量販店様に納入して売ってもらうのは、ちょっと違うのではないかと最初の段階で考えました。今、まさにどのルートで売るのが一番適正かを見極めているところです。最初にMakuakeに出品して、市場反応を取ることはできました。

 製品の特徴としても、口元に付けるということで、気軽に店頭で試していただけるような商品でもない。どちらかというとWeb中心での販売なのかなと思っています。でもタッチポイントは欲しいなというところで、重要な拠点とかには出していこうかなという戦略を取ろうとしております。

――そうなると買う人は個人になる感じですよね。社内で一括導入、みたいな方向性もあるんですか。

岩川氏 B2BとB2Cのどちらの路線でも考えています。私たち自身がB2C部門にいるので個人向けを志向している形に見えているかと思いますが、どちらかというと今B2B部門からの問い合わせも多く、そこ経由で企業様からのお貸し出し要望があったりとか、興味あるというお話をいただいております。

――B2Bではあんまり競合製品がないように思うんですよね。mutalkはVR用という位置付けなので、ちょっと見た目がサイバー過ぎるような気がします。

岩川氏 ですので、そこはうまく住み分けができるのかなと。どちらかといえば「テレワークボックス」みたいなものが、競合商品になるのではないかと思っております。

 テレワークボックスって、ものによっては100万円とか200万円するものだったりするので、それがウェアラブルデバイスに置き換えられて、2万円ぐらいで買えると思っていただければ、すごくありがたいなと思ってますね。

――一般発売が始まってもう1〜2カ月過ぎようとしてますけど、開発側があんまり想定してなかった使い方とか現場の事例とかありますか。

前田氏 メインターゲットはビジネスパーソンですが、オンラインゲーム内でのボイスチャットの際に使用してもらえるのではないかとは企画段階で思っていました。あとは語学学習とか、そこは意図する人たちに届いている感じはありますね。

 とはいえ、例えばMakuakeさんのレビューを見ていると、「歌を歌いたいです」みたいな、要するにカラオケ用途のコメントもありました。そういうのはもともとは想定していなかったと言いますか。Privacy Talkはあまり声を張って使うものではないと想定していたので、ちょっと想定外だったところですね。

岩川氏 あとはライターさんが音声入力で使われるとか。周囲の雑音を軽減する利点もあるので、カフェとかの利用は想定していましたが、建築や工事現場での連絡といった利用もあるようで。「骨伝導イヤフォンがよかったな」といったフィードバックもいただいたりして、 そういうような職種の方も検討していただけたんだなと感じました。


 過去にはBluetoothヘッドセットをした人が、話しているそぶりも見せず急にしゃべり出してビックリした経験がある人もいるだろう。当然通話内容はまわりにまる聞こえで、聞きたくはないが耳に入ってしまってなんとなく気まずいことになる。

 そうした時代からコロナ禍になり、どこにいても仕事ができるようにはなったが、コミュニケーションが減ったわけでもなく、減らして良いわけでもない。むしろどこにいても人とつながれる時代だからこそ、その瞬間にはその人とだけの会話、というのが重要になってくる。

 Privacy Talkは、見れば使い方がすぐ分かるという、非常にシンプルな製品のように感じられるが、それを実現するために想像以上に多くのテクノロジーが詰め込まれていた。その裏側の凄さこそが、日本企業の製品の真骨頂であろう。使い方も難しいところは何もないので、消費者がいろいろな使い方を自分で考えているというのも、面白い展開である。

 話してても、内容は聞こえてこないし、変に見えない。そこはやはり、常時マスクをしていても誰も不審がらないという時代になったことが大きい。この時代ならではのカムフラージュ方法を、うまく利用した製品だといえるだろう。

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)


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