検索
連載

注目集まるリン酸鉄リチウム、メリットとデメリットを整理しよう今こそ知りたい電池のあれこれ(24)(2/3 ページ)

中国系企業を筆頭にLFP系材料であるリン酸鉄リチウムの採用事例が目立つようになってきています。リン酸鉄リチウムの採用については、高い安全性や低コストといったメリットが挙げられる一方、エネルギー密度の低さやリサイクル時の収益性に対する懸念などデメリットに関する面の話題を耳にすることもあるかもしれません。

Share
Tweet
LINE
Hatena

リン酸鉄リチウムのデメリット

 リン酸鉄リチウムの代表的なデメリットとしては、材料レベルでの電子伝導性や電池として用いる場合のエネルギー密度が他の正極材料に比べて低い点が挙げられます。開発当初は電子伝導性やリチウムイオン輸送特性が低いため電池材料には不向きと考えられていましたが、現在はナノ粒子化や炭素コーティングといった粒子加工技術の導入によって性能が大きく改善され、実用化に至っています。

 また、電池として用いる場合のエネルギー密度が低い問題についても、体積効率的により多くの電池を搭載する「モジュールレス化技術」により、単電池当たりのエネルギー密度の低さをシステムパッケージとしての集約方法によってカバーする方向で開発が進められています。

 その他にも幾つか電池特性における注意点が挙げられます。1つは「メモリ効果」の存在です。一般的に、リチウムイオン電池にはメモリ効果が発生しないとされていますが、リン酸鉄リチウムを使用する場合は、微小ながら発生する事例が報告されている点には注意が必要です。

※関連リンク:リチウム二次電池のメモリー効果発見:豊田中央研究所

 もう1つの注意点は「SOC推定」です。SOCは「State Of Charge」の略であり、電池の充電状態を表す指標です。電池の容量と電圧には相関性があるので、電圧の計測結果から電池容量(SOC)を推定するのが一般的ですが、リン酸鉄リチウムを使用する場合、他の材料系よりも動作電圧が一定となる区間が多いため、電圧を基準としたSOC推定の難易度が高いとされています。

 他にも、リン酸鉄リチウムの特徴として「低コスト」が挙げられることも多いかと思います。確かにリン酸鉄リチウムの原料は鉄等の比較的安価な素材であるため、原料コスト自体は他のリチウムイオン電池の正極材料と比較すると低いと言えます。一方で、製品全体のコストは原料費だけでなく、製造プロセスや設備投資、研究開発費など多くの要素によって決まるものでもあります。

 リン酸鉄リチウムは、先述した材料特性改善のための粒子加工処理等により、原料費以外のコストは高くなる可能性があります。また、原料自体がいずれも比較的安価な素材であるため、リサイクルによるコストメリットや採算性が見いだしにくいというリスクもあります。

 しかし、リン酸鉄リチウムに限った話ではありませんが、技術の進歩とともに各種プロセスの改善や効率化が進んでいるという側面もあります。例えば、電池材料のリサイクルを手掛けるBotree等の企業を筆頭に、安価な選択的リチウム抽出処理技術の開発検討が進められており、少なくとも中国国内においては、リン酸鉄リチウムにおけるリチウムリサイクルが商業ベースで成立する可能性も出てきています。

※関連リンク:Botree

 以上の点を踏まえると、リン酸鉄リチウムの「コスト」に関する問題は、単なるメリットやデメリットと捉えるのではなく、製造およびリサイクルのプロセス改善や大量生産の効率化などによって、そのコストパフォーマンスは変動するものであると考え、今後も動向を注視するべきかもしれません。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る