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Simulation Governanceの実践と発展に向けた活動シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(12)(2/4 ページ)

連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。引き続き、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていく。最終回となる連載第12回では、「Simulation Governanceの実践と発展」をテーマに筆者の考えをまとめる。

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(3)計画策定:Simulation Governance活動の10年計画

 さて、おおむね強化ポイントが絞り込まれたとすると、それを実行に移す計画が必要になります。先の例の前者の場合でいうと、“手戻りを引き起こさない基本設計の仕組みの構築”をするための技術ロードマップと、実行するための計画を立てることになります。

 まず、“手戻りを引き起こさないとはどういうことか?”を徹底的に突き詰める必要があります。後工程でサプライズが起こらないようにするということですから、“後工程での状況を事前に想定しておく”ということになります。ここに、シミュレーションの特性である“バーチャル”という強みをフル活用する価値があります。実際にモノを作って想定することはできないからです。

 では、どのように想定するのでしょうか。商品の主性能を選び、商品の仕様や使い方を表現するパラメータを選択し、その組み合わせで失敗する可能性のあるあらゆるパターン、もしくは満足する可能性のあるあらゆるパターンを調べるというデータサイエンス的なアプローチが思い浮かびます。そして、そのためのシミュレーション技術は何かというと、これまで本連載を読まれてきた皆さんは既にお分かりですね。自ずと答えは出てくるのです。要求管理をしっかりと行う1D-CAEを使いこなす想定設計を行う多目的最適設計とトレードオフ検討を徹底して行うということに尽きるのです。

 このロジックは単なる一例ではなく、非常に多くの、おそらくは全ての企業の設計プロセスに有用な考え方です。製品もモデルも設計変数もシナリオ種類も数も性能種類も全てが異なるわけですから、3Dモデル段階では共通性はほぼないといえますが、最上流の基本設計段階では同じようなアプローチをとることができるのです。上流になればなるほど、その製品の本質設計をしていることになるので、共通になっていくのです。

 また、別案としては、MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)や1D-CAEを活用した想定設計的な設計方法論を、少数精鋭チームで開始して、スモールプロジェクトで成果を収めること、ということになるかもしれません。

(4)実践:設計変革プロジェクト

 体制、予算、スケジュール、マイルストーンを設定して、3年ないし5年かけてプロジェクトを実施することになります。昨今、目にしない日はない「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を実施して、成果を出すということになるわけです。

 その際に大切なのは、10年ビジョンに基づく、3〜5年後のあるべき像をどのように描くかです。このあるべき像を最初から持っている人は実際のところ少ないです。もちろん、役職が上の立場になればなるほど会社の将来を考えますから、立場に応じての将来像を持っている場合もありますが、少なくとも組織全体もしくは事業部として、明確なあるべき像を最初から持っていて、DXプロジェクトを進められるケースは少ないといえます。

 ですので、関係者が納得し得る(仮でもいいので)あるべき像を作成し、そこに至るための計画を考えなければなりません。また、本格的な実施に至るまでの準備期間は、トライアルを含めて最短で1年、通常で2〜3年はかかります。そこからようやく3〜5年のプロジェクトが遂行されます。準備期間を含め、このような長いスパンでの活動になりますので、筆者が所属していたダッソー・システムズでは、これまで説明してきた(1)〜(4)の流れを「Value Engagementプロセス」と名付け、お客さまと歩む活動を提案しています。

 大きなスケールのテーマであればあるほど、プロジェクトは複雑になり、関係者は増え、仕組みは煩雑に、技術は高度に、期間は長く、コストは高くなります。そうしたプロジェクトを遅れることなく円滑に進めるためには、しかるべき順番で、関係者間で決めごとを合意し、段階を踏みながら、成果物を積み上げていかなければなりません。そのプロセスのどこかで“ほつれ”があると、そこから失敗の芽が出てきてしまいます。DXプロジェクトは、実現した場合の実現価値が大きい分、たどり着くまでのリスクもそれなりにあるのです。そうしたリスクを最小限にするValue Engagementのようなプロジェクト遂行プロセスは、今後非常に重要になっていくでしょう。

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