電子回路の「アイソレーション」を考える:今岡通博の俺流!組み込み用語解説(1)(2/2 ページ)
今岡通博氏による、組み込み開発に新しく関わることになった読者に向けた組み込み用語解説の連載コラムがスタート。第1回で取り上げるのは「アイソレーション」だ。
アイソレーションが必要な場面
ここからはアイソレーションが必要な場面を幾つか紹介したいと思います。
空間電荷によるサージへの対策
実験室や工場などでLEDや蛍光灯がふいに光るのを見た経験はおありでしょうか。また、交流電圧を測定するモードでテスター(アナログ式ではない)の値がどこにもプローブを当ててないのにやたらと高い電圧を示すの見たことはありませんか。ちょっとオカルトチックな話に聞こえるかもしれませんが、これは空間電荷によるサージのなせる業なのです。
ゲルマラジオの検波素子の代わりにLEDを使う例を聞いたことがあります。逆に、ゲルマラジオの通信波でLEDを点灯させる実験に精を出している強者もいるようです。都内にも異様に電界が強くなる地域があるようで、今はなきTV番組「タモリ倶楽部」でそのようなホットスポットを探訪する回が放映されてたことを記憶している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
軍用の強力な電波発生源の近くでは、蛍光灯を持っているだけで光るという話を聞いたことがあります。また、長く敷かれた通信路がこれらの電位差を捉えてしまい、高電圧を発生させるアンテナの役割をしてしまうことが多々あります。
これらのような空間電荷によるサージへの対策はアイソレーションとなります。まずは、終端抵抗などでインピーダンスを低く保つことが考えられます。次に、通信路をツイストペアにすれば同相のノイズを打ち消すことが可能です。サージが発生してもベースバンド側にダメージが及ばないよう、回路にトランスを組み込むのもアイソレーションの代表的な対策です。
高電圧と低電圧の領域隔離
一般的に、電子回路の高電圧と低電圧の領域は隔離しておく必要がありますが、それはなぜでしょうか。筆者としては、隔離するどころか別々の回路基板に分けておきたいくらいなのですが……。
同一基板に高電圧のパターンと低電圧の部品やパターンが混在している場合、高電圧の電流がパターンを流れると輻射ノイズが発生し、近隣のパターンに電磁誘導でノイズを発生させたり、低電圧の回路で用いているコイルなどにノイズを発生させたりします。これはマイコンなどのデジタルデバイスに対して0と1を取り違えさせる要因になります。それはマイコンの誤動作につながるでしょうし、計算間違いを引き起こすかもしれません。
また、基板のデバッグなどで測定器のプローブをパターンに当てる場合、誤って高電圧域と低電圧の間をショートさせたりすると、低電圧の回路には相当なダメージを与える可能性があります。このため、基板のデバッグやジャンパーにプローブを当てるなどの作業ではかなりの緊張を強いられます。
アイソレーションの施し方
ここからはアイソレーションを施す幾つかの事例を紹介します。
マイコンから高電圧機器を制御する際には、トランジスタを介したリレー(継電器)を用いるのが一般的でしょう。
フォトカプラを経由してソリッドステートリレーを駆動する例もあります。秋月電子通商などの電子部品のECサイトでは「ソリッドステートリレーキット」という形で販売されています。
フォトカプラは、発光ダイオードと受光素子が一つのパッケージに封入されており、光で信号を伝えるので、LED側と受光側で絶縁を保つことが可能です。高電圧側の信号を、低電圧側であるマイコンに取り込みたい場合も同様にフォトカプラがよく用いられます。
おわりに
今回はデバイスの紹介や実際の作例ではなく、言葉遊びに終始した感は否めません。エンジニアとして言葉の定義をしっかり押さえておくことはとても大切で、もちろん技術的内容を文章にまとめることを日常的にされている方にとっては当然でしょう。
しかし、いわゆる組み込み系の技術者はハードウェアとソフトウェアの境界をつなぐ役割を担っていることが多く、両分野の技術者と話をしなければならないことが多々あるかと思います。そんな時に大切なのは、互いの文化や流儀を理解することなんですが、それほど簡単ではありません。
最初に地誌学におけるアイソレーションの意味を紹介しましたが、極端な例とはいえ業界が違うと同じ言葉でも異なった使われ方をすることに気付かれたかと思います。優れた組み込み技術者は、違う文化の技術者と一緒に仕事ができるコミュ力(コミュニケーション能力)の持ち主です。このコミュ力をいかんなく発揮させるためには、言葉の意味を深く考えていくことが必要です。というわけで読者の皆さん、互いに精進していきましょう。
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