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加湿器トランスデューサの水中通信実験で「ロバチャン」が進化する【前編】注目デバイスで組み込み開発をアップグレード(21)(1/2 ページ)

注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。第21回と第22回では、筆者が設計に関わったコンテスト「ロバチャン」を紹介するとともに、その進化に向けて行っている加湿器のトランスデューサを用いた水中通信実験について解説する。

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はじめに

 筆者は「Robust Protocol Open Challenge(ロバストプロトコル・オープンチャレンジ、略称ロバチャン)」というコンテストを設計し何度か主催してきました。このロバチャンでは、物理的障害のあるLANケーブルを通してプロトコルの強靭(きょうじん)さを競います。

 2019年8月開催の「セキュリティ・ネクストキャンプ2019」で初めて実施しました。以下に、当時筆者が書いた講義内容を引用します。

 一般にサイバーセキュリティとは悪意を持った第三者からの攻撃から情報通信機器やデータを守ることに重点が置かれがちですが、これ以外に事故や自然災害から通信を確保することもサイバーセキュリティの大事な要素と考えます。

 本講義では2つのRJ45端子があるブラックボックスを講師が用意します。その端子間でとある通信障害が発生する仕組みになっています。そのブラックボックスから障害の内容を調査し、その障害に対応したプロトコルを考案し実装します。あらかじめ示された評価軸に基づき、各自が考案したプロトコルを講師や参加者とともに評価します。

 この講義ではどのプロトコルが優れているかを競うのではなく、今回の実装に至った思考過程を明らかにし、各自のプロトコルの設計思想を共有することを本講義の目的とします。

筆者の今岡氏が「SECCON 2023 電脳会議」に登壇!

情報セキュリティコンテストイベントの「SECCON 2023 電脳会議」で、本記事で紹介している「ロバチャン(ロバストプロトコル・オープンチャレンジ)」について、筆者の今岡氏が直接解説する講演に登壇します。詳細は以下のイベントURLからご確認ください。

イベント開催日:2023年12月23日(土)〜24日(日)

講演タイトルと日時:D1-WS6/ロバチャン、12月23日(土)13:30〜14:30など

会場:浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス(東京都台東区浅草橋1-22-16 ヒューリック浅草橋ビル)

イベントURLhttps://www.seccon.jp/2023/ep231223.html

⇒連載「注目デバイスで組み込み開発をアップグレード」のバックナンバー

ロバチャンの礎を作った2019年度ネクストキャンプ生

 この当時はまだ新型コロナウイルス感染症が流行する前であり、フルで対面授業ができました。このときは、障害のあるLANケーブルをシミュレーションするためのArduinoで作ったブラックボックスを学生に配布しました。

図1
図1 「ロバチャン」のブラックボックスの説明図[クリックで拡大]

 図1は、ブラックボックスを学生に事前配布するときに同封した説明図です。セキュリティ・キャンプもネクストキャンプも事前学習というのがあって、「これを使って当日の講義までにある程度ロバストプロトコルを仕上げてきなさい」というような意図だったかと思います。今となってはかなり重い負荷を学生に強いた気もしますが、その割にはロバストの講義が楽しみだったという感想も聞かれました。筆者の講義に参加した学生のブログにも残っています。

筆者の講義に参加した学生のブログ

 図1の説明をしようかと思ったのですが、上記のブログを参考にしていただいた方が正確なので、ここでは図の説明は割愛します。ただ、手書き文字のちょっと読みにくいところだけ補足しておきます。図1内右上のポンチ絵では、LANケーブルを縦に割いて、オレンジ色単色の線とオレンジと白がストライプの線を引き出しています。そして図1内右下のポンチ絵では、それらの線の被覆を剥がしてブラックボックスにつながっている2つのクリップをつなぐということを示しています。

 実は極性があって、ブラックボックスからの線が単色のものはLANケーブルの単色の線につなぎ、またストライプの線は同じくストライプの線につなぐ必要があります。受講生の皆さんはLANケーブルから引き出した線の被覆を剥がすところで苦労していたようなので、被覆を剥いだLANケーブルを作って送り直しました。

 講義を受講する学生は、このブラックボックスを介して障害のあるケーブルでつないだノード間で通信をさせます。この環境で強靭なプロトコルを各自に考案させ、そのロバストさを競うレギュレーションを決めコンテストの内容を設計させました。ここで決まったのがロバチャンのルールです。

 ということで、最初にロバチャンを筆者が設計したかのように書きましたが、LANケーブルに障害を与えるブラックボックスを作って学生に配布しただけで、実際にこのコンテストを設計したのは2019年度のセキュリティ・ネクストキャンプの学生だったんですね。執筆しながら当時のことをやっと思い出しました。

オンライン対応へと進化したロバチャン

 2020年からはコロナ禍もあって対面の講義ができなくなったので、オンラインでコンテストに参加できるようブラックボックスをサーバタイプに改良しました。これは筆者自身で行っています。詳しくは以下のGitHubのリポジトリを参照してください。

⇒オンライン対応ロバチャンのリポジトリ

 この資料は英語になっています。セキュリティ・キャンプの国際版となる「Global Cybersecurity Camp(略してGCC)」というのがありまして、現在は日本、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、オーストラリアが参加して毎年実施されています。その2021年と2022年の開催回では、このロバストプロトコル・オープンチャレンジが採択されコンテストを実施することができました。というわけで、資料が英語なのです。

 というのがロバチャンのこれまでのいきさつです。

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