加湿器トランスデューサの水中通信実験で「ロバチャン」が進化する【前編】:注目デバイスで組み込み開発をアップグレード(21)(2/2 ページ)
注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。第21回と第22回では、筆者が設計に関わったコンテスト「ロバチャン」を紹介するとともに、その進化に向けて行っている加湿器のトランスデューサを用いた水中通信実験について解説する。
コンテストのライフサイクル
ここまでの説明でロバチャンがどんなコンテストかということは押さえておいてもらった上で、今現在ロバチャンが直面している問題について話を移していきます。
コンテストも会を重ねるとやがてサチュレーション(saturation)を迎えるんですね。以下の図2で説明します。
図2の縦軸はコンテストのパフォーマンスを示します。横軸は時間というかコンテストを開催した回数とします。Aの赤いグラフを見ると、回数Bの時点に達するまではコンテストの回を重ねるごとに成績(パフォーマンス)は上昇します。それは両矢印Cで示した期間ですね。ところが、コンテストの実施回数がBを超えると、コンテストの回数を重ねても成績はあまり伸びません、この状態、図2でいうところの矢印Dの期間ですね。この状態をサチュレーションといいます。会話風にいえば「もうそろそろロバチャンもサチってきたかな」という具合に使います。まさにコンテストが期間Dに突入したことを言います。
それで、サチる原因ですが、コンテストごとにプロトコルの設計やプログラムが改善され技術的に飽和状態になるんですね。それと、支配的な設計やプログラムが登場すると競技者はそれを参考にしたり模倣したりするわけですよね。そうなるとほんのわずかな差異しか現れずイノベーションにつながっていきません。支配的なプロトコルの設計が登場したことはある意味ロバチャンがイノベーションを起こしたといえるかもしれませんが、サチった状態からは次のイノベーションは起こりにくいですよね。
また、コンテストとしても活気に欠けてきます。ここで少し筆者の体験を話しておくと、コロナ禍の最中にオンラインのセキュリティ・キャンプでロバチャンを実施したとき、ある学生がとんでもない成績をたたき出したんですね。ロバチャンは10BASEのLANケーブルで行っている競技なのですが、その上限帯域に迫る数値だったんです。この時点でコンテストを実施する側としては次の策を考えるしかなくなりました。
ロバチャンの遺伝子を引き継ぐ水中ロバチャン
そこで思い付いたのが今回と次回の前後編で紹介する「水中ロバチャン」です。ロバチャンは、コンテストが生まれて5年もたたないうちに終焉を迎えつつあります。しかし水中ロバチャンは、加湿器のトランスデューサを用いた水中通信実験として、元祖ロバチャンの伝送メディアであるLANケーブルを水中に置き換えることで新たに生まれ変わります。
元祖ロバチャンのレギュレーションやその他のスキームをそのまま採用しますので、ロバチャンの遺伝子を引き継ぐコンテストとも言えます。
おわりに
世の中には歴史のある名だたるスポーツ競技が多くあります。それらがなぜ現代まで生き残ってきたのか、コンテストの設計を志す皆さんはぜひそのあたりを研究してみてはいかがでしょうか。
今回の前編で水中ロバチャンについては、「加湿器のトランスデューサを用いた水中通信実験」というレベルでほんのさわりしか紹介していませんが、次回の後編ではミスト発生用の民生品である超音波トランスデューサを用いた水中ロバチャンの全貌をお届けします。(次回に続く)
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