学生にモノづくりの面白さを伝えるには 「製造業の魅力」をプレゼンするコツ:製造業のシン・新卒採用戦略(3)(2/2 ページ)
近年、学生たちから就職先としての製造業の人気が低下傾向にある。本連載ではその理由を解説し、日本の製造業が再び新卒学生から選ばれるために必要な「発想の転換」についてお伝えする。第3回は、学生に製造業の魅力を伝えるための方法について解説していく。
内省→表出→評価のサイクルで、プレゼンの質を高める
どうすれば、学生に製造業の魅力をうまく伝えられるのだろうか。筆者は、「内省→表出→評価」のサイクルを回すことが重要だと考える。PDS(Plan、Do、See)サイクルと言い換えると分かりやすいかもしれない。
(1)内省
製造業の魅力を発信する企業(イベントに登壇する社員)は、まず「内省」し、「自分の仕事にはどのような魅力があるのか?」を丁寧に言語化してみてほしい。ポイントは、他者と語り合う機会を設けることだ。魅力というのは他と比較した時に見えてくるものであり、一人で内省していてもなかなか気付けない。だが、他者からの視点を踏まえて自分の仕事を捉えることで、魅力を鮮明に認識できる。
(2)表出
次に、内省して気付いた魅力を、実際に語ることで「表出」させてみよう。ポイントは、「伝わる」ための技術を習得した上で表出させることだ。例えば、学生向けのプレゼンでは、以下のような方法論を紹介することが多い。
- 事実と感情をバランスよく伝える
出来事や実績、数字などの「事実」と、喜怒哀楽や思ったこと、未来への意志などの「感情」をバランス良くプレゼンに盛り込む。そうすることで、聞き手に具体的なイメージを持たせることができ、プレゼンの訴求力が高まる。研修を実施するなかで、エンジニアの社員は、日々「事実」に向き合っており、「感情」の表現に慣れていない人が少なくないと感じる。意識的に「感情」にウエイトを置くことで、プレゼンのバランスが良くなるだろう。 - 「STAGEの観点」でストーリー設計をする
出来事を伝えるときは、「状況(Situation)」「困難(Trouble)」「行動(Action)」「結果(Goal)」「影響(Epilogue)」の5つの要素でプレゼンを構成してみよう。そうすることで、ストーリーにアップダウンが生まれ、聞き手の没入感が高まる。例えば、以下のようなイメージだ。
- 状況(Situation):プロジェクト発足の契機
- 困難(Trouble):プロジェクト中に生じた問題
- 行動(Action):問題を乗り越えるための行動
- 結果(Goal):行動の結果
- 影響(Epilogue):プロジェクトの意義
これらの方法論を採用する上で、「仕事をしている場面が目に浮かぶくらいに、具体的に伝える」「仕事の社会的意義や意味を意識的に伝える」など、いくつか意識すべきポイントがある。それらを学んだ上で練習を重ねれば、より良い結果に結び付きやすいだろう。
(3)評価
最後に、表出させたものを「評価」し、プレゼンの質を高めていこう。ポイントは、他者に聞いてもらい、意見交換したり、アドバイスし合ったりすることだ。
筆者が理事長を務める「エッジソン・マネジメント協会」(詳細は記事の末尾を参照)では、イベント登壇企業が集まってプレゼンテーション研修を実施している。この研修の目的は、学生に「製造業の魅力が伝わるプレゼン」ができるようになることであり、参加企業同士でアドバイスしながら、それぞれのプレゼンをブラッシュアップしている。こうして入念な準備、トレーニングをすることで、登壇する社員は自信を持ってイベントに臨み、学生に対して堂々と魅力を語れるようになる。
エンジニアの社員を対象にプレゼンテーション研修を実施することが多いが、理論と実践の行き来が習慣化されているからなのか、成長の早さにいつも驚かされる。参加者は、短期間でめきめきとプレゼンスキルを伸ばしていく。
プレゼンスキルが向上すると、自分の考えが他者に伝わる喜びを実感できるようになる。研修受講前には「プレゼンには自信がない」と言っていたエンジニアの社員が数カ月後、プレゼンの機会を心待ちにするようになっている、といった例は少なくない。
ちなみに、今の時代はエンジニアが直接企画を社内外に説明し、リーダーシップを発揮することが求められている。そのような背景からもプレゼン研修は参加者のエンジニアの社員に好評である。
学生にエンジニアの生き様をプレゼンする「しごとーく」
エッジソン・マネジメント協会では、内省、表出、評価のサイクルによってプレゼンの準備をする研修を実施した上で、「しごとーく」というイベントを開催している。
「しごとーく」は、製造業で働くエンジニアの社員が自らの「生き様」をプレゼンし、学生に仕事やキャリアの魅力を伝える取り組みだ。参加した学生からは、「自分で道を切り開いている姿に感銘を受けた」「エンジニアの皆さまの仕事に対する心構えやモチベーション、やりがいを知ることができた」など、ポジティブな感想が多数届いている。
おわりに
製造業は多くの魅力がある業界であるにもかかわらず、それをうまく伝えられていないために、学生から就職先として選ばれにくくなっている。筆者は10ある魅力のうち、1や2しか伝えられていないケースが多いのではないかと感じている。決して事実を誇張したり、ウソをついたりしてほしいわけではなく、10ある魅力を10伝えていただきたいのだ。製造業で働く大人の背中を、あるがままに見せてほしい。
仕事の魅力やエンジニアの生き様を若い世代に伝えることができれば、製造業が選ばれやすくなるだけでなく、若者の働くこと自体へのモチベーションも高まっていくだろう。
次回は、エッジソン・マネジメント協会が推進する青田創りの実践例として、「しごとーく」の具体的な内容をお伝えしたい。
エッジソン・マネジメント協会とは
エッジソン・マネジメント協会は、企業を越え、セクターを越えて、産官学連携/共創して優秀な人材を育むことをめざして創設された団体だ。若者の育成に情熱を持つ方や、人材採用に問題意識を持つ方は、ぜひWebサイトで事業内容や活動内容をチェックしてほしい。私たちは、いつでも「青田創り」の仲間を求めている。
筆者紹介
樫原洋平 株式会社リンクアンドモチベーション エグゼクティブディレクター
早稲田大学/同志社大学/大阪公立大学 非常勤講師
早稲田大学 モチベーションサイエンス研究所 招聘研究員
一般社団法人『エッジソン・マネジメント協会』代表理事
一橋大学経済学部卒業後、2003年にリンクアンドモチベーション入社。メガバンク、総合商社、グローバルメーカー、インフラ、ITなど多様な業界の採用コンサルティングに100社以上従事。また、大学教育事業を立ち上げ、産学連携での教育プログラムを開発、実行。早稲田大学/同志社大学などで非常勤講師を務める。2022年にパナソニックグループ、日立製作所、清水建設、京セラ、早稲田大学、同志社大学の産学から理事を迎え、一般社団法人『エッジソン・マネジメント協会』を立ち上げ。著書に『エッジソン・マネジメント』(PHP研究所)
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