富士経済は2024年5月9日、カーボンニュートラル燃料の市場調査結果を発表した。
化石燃料も含めた燃料の世界市場は、燃料を使う各種製品の電化、再生可能エネルギーの利用拡大などにより、縮小していくと見込む。化石燃料はカーボンニュートラル燃料への移行や、長期的なコスト低下により金額ベースでの市場規模は小さくなり、2022年の603兆円から2050年には202.1兆円に減少する。将来的な需要減少を見通して油田やガス田、炭鉱の新規開発投資が大幅に減少し、既存プロジェクトの損益分岐コストで推移することが、化石燃料のコスト低下の要因だという。
カーボンニュートラル燃料は、電化や再エネ活用が進む中でも残る燃料の需要を取り込み、市場規模は2022年の29.9兆円から、2050年には236.3兆円に成長すると見込む。
用途別の需要
自動車向けは、バイオディーゼルやバイオエタノールの需要が伸びる見通しだ。環境規制や原料原産国での混合義務引き上げが要因となる。また、欧州ではエンジン搭載車の条件付き販売認可でe-Fuelの需要が伸長する。熱量ベースでのカーボンニュートラル燃料の比率は、2022年の4.3%から2050年には37.8%に増加するとしている。
船舶向けは、クリーンアンモニアやバイオディーゼルの普及が進む。IMO(国際海事機関)が2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする目標を掲げているためだ。カーボンニュートラル燃料の比率は、2022年の僅少から、2050年には35.9%に拡大するとしている。
航空機向けは、ICAO(国際民間航空機関)によるCORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation、ICAOにおける国際航空分野の炭素排出削減制度)の導入や、欧州でのSAF(Sustainable Aviation Fuels、持続可能な航空燃料)の採用義務化により、バイオジェット燃料やe-Fuelが普及する。カーボンニュートラル燃料の比率は、2022年の僅少から2050年には73.4%まで増加する。
発電向けは、バイオメタンや水素、アンモニア混焼による脱炭素化が進む。カーボンニュートラル燃料の比率は、2022年の1.8%から2050年には23.9%に増加する。産業向けは短中期的には木質などの固体バイオマス燃料が有望だとしている。長期的には既存のインフラを使用可能で家庭向けにもアプローチできるバイオガスやバイオメタン、e-メタン、グリーンLPGが伸長するという。カーボンニュートラル燃料の比率は、2022年の2.8%から2050年には20.3%に上る見通しだ。
ブルー水素に対する各国の動き
化石燃料からの改質とCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage、CO2の分離回収、利用、貯蔵)を組み合わせて製造時のCO2排出量を削減したブルー水素の市場規模は、金額ベースで2030年に3830億円、2050年に2兆889億円と見込む。米国は、CCUSに適した土地が多く、生産した水素の炭素集約度に応じた税額控除などブルー水素製造に対するバックアップが充実していることから、大規模な設備投資が進んでいる。
カナダは天然資源が豊富であることに加え、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage、CO2の分離回収と貯蔵)に適した地質が多い。アルバータ州などでは、天然ガスを原料とした製造事業が行われる予定だ。2040年には水素関連製品を国外にも展開する方針を掲げている。
欧州では、再エネの主力電源化とともに、製造時にCO2を排出しないグリーン水素の製造を積極的に進めているが、ブルー水素も一定程度の製造が行われるとしている。英国では、北海にCO2を貯留するブルー水素製造プロジェクトや、製造したブルー水素を使った水素専焼発電などが計画されている。
中国では2020年にクリーン水素認証制度が整備され、水素製造時だけでなく設備の生産、建設、運転も含めてCO2排出量に基準が設けられ、一定以下のCO2排出量のブルー水素をクリーン水素として認定する。中国は再エネ活用が推進されており、ブルー水素よりもグリーン水素の市場拡大が予想されるという。
豪州は2030年までにアジア向けの主要な水素輸出国となることを目指しており、グリーン水素の市場が成立するまでブルー水素を中心に取り組むとみられる。
韓国ではSK E&Sが2025年にブルー水素の製造を計画している。
日本では2025年ごろからブルー水素製造の実証を行う計画がある。2030年に商用化フェーズとなり、豪州などとの国際的な水素サプライチェーンが構築され、水素の消費量が増加すると見込む。2040年以降は発電分野での利用が本格化して大規模な水素需要が生まれ、産業分野や製鉄分野での水素利用も活発化すると予測する。
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