営業利益の実績と見通し
2023年度通期の営業利益は、為替やスワップの影響を除いても1兆7400億円増の増益だった。特に貢献したのが営業面の努力で、HEVを中心とした販売台数の増加や高収益車種の好調な販売による構成の改善、欧米を中心とした価格改定により、前年同期と比べて2兆円の改善となった。
また、資材高騰の影響は2650億円のマイナス要因となったが、3850億円の原価改善によって影響を吸収。諸経費に関しては労務費やデジタル化などへの投資が増加して3800億円の減益要因となった。為替変動の影響は6850億円のプラスとなった。
地域別の営業利益は、「その他地域」を除いて増益だった。日本は出荷停止の影響で販売台数が減少したものの、輸出台数が増加したことなどにより利益が増加した。北米や欧州、アジアは価格改定が貢献した。中国は、HEVの堅調な需要に支えられて販売を維持し、販売台数は前年度比1.4%増のプラスを確保した。
2023年度通期の営業利益が前年度からほぼ倍増となったのは、2023年度はここ数年のような新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大や半導体の供給逼迫、資材価格高騰などの影響がなく事業環境が穏やかだったことが背景にあるという。
その上で、国内での販売物流管理システム「J-SLIM」の導入、グローバルでの部品点数削減やAIを活用した需給システムの活用など、これまでに積み上げてきた収益構造強化の取り組みの成果が現れた結果だとしている。さらに、「良好な事業環境を受けての販売費の抑制や、多くの受注残を抱える中で従業員や仕入先に一時的な“短距離走”をお願いした分が含まれている」(トヨタ自動車 副社長 CFOの宮崎洋一氏)。
2024年度に営業減益を見込んでいるのは、前年度に市場環境が良好だった反動や受注残の影響で3529億円の減少、従業員の環境改善など人的資本への投資が3800億円増加、成長領域への投資が3200億円増加することを織り込んだためだ。人的資本への投資のうち、3000億円が仕入れ先や販売店の労務費となる。これまで強化してきた収益構造は維持する。
モビリティカンパニーへの変革での投資は、マルチパスウェイの具現化に向けたEVや水素関連の取り組み、ソフトウェアやAI(人工知能)などトヨタらしいSDV(ソフトウェアデファインドビークル、ソフトウェア定義車両)の基盤づくりに使う。2024年度の設備投資を前年度から4000億円増の1兆1000億円に、研究開発費を同1000億円増の6000億円に増やし、合計で1兆7000億円となる(総額は設備投資が2兆1500億円、研究開発費が1兆3000億円)。
2024年度の営業利益の増減要因をみると、為替変動の影響が550億円のプラスとなる一方で、為替やスワップなどの影響を除くと1兆1450億円減のマイナスとなる見通しだ。3000億円の原価改善を予定しているが、サプライチェーンの基盤強化や資材高騰が4500億円の減益要因となる。また、労務費や研究開発費、減価償却費、経費など諸経費も7800億円増加すると見込む。ただ、前向きな投資や2023年度に良好だった事業環境の影響を除くと、原価改善の努力は1500億円のプラス、販売面の影響は1579億円のプラスとなり、諸経費のマイナス要因は4000億円まで抑えられるとしている。
足場固めの重要性
決算会見でトヨタ自動車 社長 CEOの佐藤恒治氏は、モビリティカンパニーへの変革に向けた取り組みを紹介する一方で、足場固めにも注力することを繰り返し語った。グループ内で続いた不正や、トヨタ自身に余力がないことに対する反省が念頭にあるという。
言及された“余力”とは、モビリティカンパニーに変わっていくための改革を進める余裕を指している。現状では今ある仕事のオペレーションの効率が改善されているが、「現状に合わせた効率化だからこそ、長期的な視点で仕組みを変えるのが難しい。自動車からモビリティに移っていく中で、部品やシステムなど機能単位の領域を超えて、上流から下流までを通して在り方を考えていく必要があるものの、それに取り組む時間が十分にとれていない」(佐藤氏)という。
「開発から販売まで一気通貫でつながれば仕事のやり方が大きく変わる。それに向けた現場の状態をつくる上で、ペースダウンしてでも未来への投資を進めたい。仕入先を含めた大きな投資で足場固めをしていくことは生産性の向上にもつながる。コストを固定的に抱えるのとは違う」(佐藤氏)と述べた。
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