薬剤耐性菌が人社会から自然環境に拡散している可能性が示される:医療技術ニュース
北海道大学は、世界中の人医療で問題になっている薬剤耐性大腸菌株クローンのST131が、日本国内の野生動物や水系環境から分離されることを明らかにした。人社会から自然環境へのST131の拡散が示唆される。
北海道大学は2024年4月17日、世界中の人医療で問題になっている薬剤耐性大腸菌株クローンのST131が、日本国内の野生動物や水系環境から分離されることを明らかにしたと発表した。人と自然環境との間で遺伝的類似性の高いパンデミッククローンも見つかり、人社会から自然環境へのST131の拡散が示唆された。岐阜大学らとの共同研究による成果だ。
ST131は、フルオロキノロン系抗菌薬に耐性を示し、他の系統の抗菌薬にも高頻度に耐性を示す大腸菌クローンだ。今回の研究では、岐阜県内のタヌキやシカなど野生動物の糞便や岐阜県内の河川、琵琶湖の水から分離したST131と、岐阜県および滋賀県の患者の尿検体から分離されたフルオロキノロン耐性大腸菌について比較解析した。
その結果、6株のST131 Clade C2を除き、全てが2000年代以降に日本全国へ広がっているST131と一致するST131 Clade C1に分類された。また、全ゲノム解析の結果、国内のST131は国外のST131株と遺伝的類似性が低い一方、国内の人、水環境および野生動物から分類されたST131の一部は遺伝的類似度が高いことが明らかとなった。
今回の結果は、世界中で問題となっている薬剤耐性菌の抑制には、臨床現場内での対策では不十分である可能性を示している。人、動物、環境を横断したOne Health Approachに基づく対策が、より重要であることが示唆された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 生体深部を観測できる短波赤外蛍光色素を開発、がん診断への応用に期待
北海道大学は、短波赤外蛍光イメージングの医療応用に向けた蛍光色素の開発に成功した。生体深部の観測が可能になるため、がん診断やがん治療への応用が期待される。 - 4K UHDイメージングに対応する、医療グレードボックスPCを発表
エイスースジャパンは、サブブランドのASUS IoTが提供する、医療グレードのボックス型PC「MDS-M700」を発表した。4K UHD AI画像処理など、さまざまなヘルスケアアプリケーションに対応する。 - フォトンカウンティングCTの実用化を目指し、臨床研究を開始
キヤノンメディカルシステムズと広島大学は、次世代の画像診断装置として期待されるフォトンカウンティングCTの早期実用化を目指し、共同で臨床研究を開始した。装置機能の最大化を目指し、基礎から臨床応用まで幅広い研究を進める。 - 3D画像の視認性が向上した、3D画像解析システムを発売
富士フイルムは、3D画像解析システムの最新版「SYNAPSE VINCENT Ver7.0」を発売した。3D画像の視認性が向上したほか、術前シミュレーションの機能を強化し、新しい画像観察方法を提供する。 - 高エネルギー電子線をレーザーで発生、より安全ながん治療装置の確立へ
量子科学技術研究開発機構は、細孔が多数開いたガラス板へのレーザー光照射により、放射線の1種である高エネルギー電子線が発生することを実証した。がん治療に用いる内視鏡型電子線発生装置への応用が期待される。 - 持続感染性を有するウイルスの獲得に成功
名古屋大学は、センダイウイルスの遺伝的多様性を高め、持続感染性を獲得したウイルスを得ることに成功した。センダイウイルスのベクター機能改良や、急性感染性ウイルスの生態解明に貢献する成果だ。