排ガス中のアンモニアを資源に変える古来の顔料:有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(9)(1/2 ページ)
カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発を概説しています。今回は筆者がその開発に携わっている気相アンモニア吸着材と、その吸着材を活用したアンモニア資源化技術を紹介します。
大気中に放出されるNH3の課題
排ガスなどに含まれ、大気中に排出されるアンモニア(NH3)の問題については、本連載第4回でご紹介しましたが、簡単に振り返ります[参考文献1]。NH3は窒素酸化物(NOx)に続いて排出量が大きい物質です。
NOxは規制の効果もあり、年々その排出量は減少している一方、NH3は顕著な現象がみられていません。海外でも、欧州連合(EU)では2016年に国家排出削減公約指令を発行し、NH3排出量の低減を進めています[参考文献2]。
大気中に放出されるNH3は、PM2.5の主要因であるとともに、悪臭など身近な環境問題の原因にもなっています。一方、NH3は非常に生産量が多い基礎化学品であり、肥料や化学品原料、脱硝材などに活用されています。このような現状から、まずは大気中へのNH3の排出量の削減、そして最終的には排ガス中のNH3の回収と資源利用の技術開発が期待されています。
古い顔料がアンモニアを吸着する
排ガス中のNH3を資源利用するには、薄い濃度のNH3を回収し、資源として利用できる形で取り出す必要があります。NH3を取り出すツールとして期待されるのが吸着材です。吸着材は、大気中からNH3を吸着し、そのNH3を脱離させることで、薄いNH3から高濃度の資源として使えるNH3資源を生み出すことができるのです。
NH3の吸着材はさまざまありますが、私たちの研究グループでは、プルシアンブルーという古い顔料がNH3を吸着する性能が非常に高い、ということを発見しました[参考文献3]。プルシアンブルーは18世紀初頭に初めて合成された青色顔料で、葛飾北斎の富岳三十六景や、ゴッホの絵画にも利用されている古来の顔料です。
そのような、300年以上も利用されてきた顔料が実はNH3の吸着材に適していた、ということが分かったのです。さらに、含有されている金属が異なるプルシアンブルーの類似体を調べたところ、よりNH3の吸着力が高い材料も見つかっています。
プルシアンブルーの類似体がNH3を吸着する量は、ゼオライト、イオン交換樹脂、活性炭といった、これまでのNH3吸着材と比べても非常に高いのです。プルシアンブルーの類似体は、非常に低いNH3濃度でその吸着力の高さを特に発揮します。例えば30ppmに相当する薄い濃度のNH3に対して、われわれが開発したプルシアンブルー類似体は、従来利用されてきたイオン交換樹脂や活性炭と比べて最大8倍以上の吸着量を示したのです(図2)[参考文献4]。
プルシアンブルーの鉄原子(Fe)の一部を銅(Cu)に置換した、プルシアンブルー類似体の1つである銅プルシアンブルーはNH3が低濃度でも高い吸着量を実現します。加えて、吸着したNH3を水洗など、さまざまな方法で脱離し、吸着材を再生することができます。
Feを全てコバルト(Co)に置換したコバルトプルシアンブルーは高い耐熱性を持ち、高温での利用に向いています。このように、プルシアンブルーをベースに原子レベルで改良を施すことで、さまざまな特徴を持つ吸着材が生まれています。また、私たちは実際に使えるように、吸着材の粉末を粒状に成型しました[参考文献5]。銅プルシアンブルーの粒状吸着材は産総研からフソウに技術移転され、ナノブルーで販売を開始しています(図3)[参考文献6]。
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