フィンランドが推進する医療と社会福祉のDX/SX戦略とイノベーション:海外医療技術トレンド(105)(3/4 ページ)
本連載第32回、第45回、第51回、第57回、第90回、第100回で北欧全体のデータ駆動型デジタルヘルス施策を取り上げてきたが、今回はフィンランドの医療/社会福祉におけるDXやSXの動向に焦点を当てる。
グローバルなデータ駆動型イノベーション基盤をめざす「Findata」
他方、前述の戦略ロードマップのうち、「11. 研究・開発・イノベーション活動における情報の利用」のタスクに関わるフィンランド固有の仕組みが、フィンランド保健・福祉研究所所管の「Findata」(フィンランド社会・保健データ許可局、関連情報)だ。フィンランド社会・保健データ許可局は、フィンランド保健・福祉研究所所管下で、年間予算約300万ユーロ、従業員数約30人規模の独立した非営利組織の形態をとっている。
Findataは、豊富なフィンランド全体に渡るデータセットへのアクセスを向上させることを目的とした研究者向けの中央集中型保健データアクセスポイントであり、保健・社会データの2次利用に関する法律(関連情報)に準拠して、2020年より運用されている。
Findataは、以下のようなサービス機能を提供している。
- データが求められた時に、データ許可を付与する
- 複数のコントローラー(後述)から
- 民間医療ユニット
- Kantaサービス(電子健康記録)
- データを収集、リンク付、仮名化する
- 要求に応じて集約されたデータを生成する
- データを適用、転送、管理するためにセキュアなIT環境を維持する
- データ分析のために、セキュアな遠隔アクセスシステム「Kapseli」(関連情報)を提供する
- データユーザー向けのヘルプデスク
- 匿名化サービス
- 研究/開発/イノベーション(R&D&I)インフラストラクチャ規制を発行する
なお、前述の保健・社会データの2次利用に関する法律でカバーされるデータコントローラーは以下の通りである。
- Kantaサービスに保存されたデータ
- デジタル・人口データサービス庁
- フィンランドデジタル庁、個人の基本的な詳細、家族関係、居住地および建築物の詳細
- フィンランド年金センター
- 仕事・収入データ、ベネフィットおよびそれらの基礎
- フィンランド保健・福祉研究所
- 統計目的で収集したデータには適用されない
- フィンランド労働衛生研究所
- 職業性疾病、暴露検査、患者レジストリ
- フィンランド医薬品庁 Fimera
- 国立福祉・保健監督局 Valvira
- 医療/社会福祉の公的・民間サービスプロバイダー
- フィンランド社会保険庁
- ベネフィットと処方箋
- フィンランド統計局
- 死因調査に関する法律でカバーされたデータへのアクセスが要求される範囲内
- 地域行政機関
- 医療/社会福祉に関する事象
本連載第90回でフィンランドにおける2次利用目的の保健・社会関連データの取得プロセスに触れたが、Findataの場合、保健・社会データの2次利用に関わるコンセント管理について、オプトアウト方式を採用しているほか、イノベーション/開発を目的として民間企業やイノベーターがアクセスできるような仕組みを導入している。既に日本からは、武田薬品工業がFindataを活用したがん治療研究に参画した実績がある(関連情報)。加えてFindataは、データ利用に関わる透明性や説明責任の観点から、データ2次利用に関わる費用体系についても広く公開しており(関連情報)、参考になる。
本戦略ロードマップのFindataに関連するタスクでは、以下のような方向性を示している。
- 11.研究・開発・イノベーション活動における情報の利用:
研究/イノベーションに関与し、これらの領域で協力するために、アクターの前提条件を強化する。データ処理と分析のための効率的で高品質の環境を利用可能にする。運用環境は、国際協力や、フィンランドの研究および製品の開発の国際的成功をサポートする
参考までに図2は、本連載第100回で紹介したノルディックイノベーションの「北欧のHealth Techに関する投資家のアプローチと視点」(2023年10月10日)(関連情報)より、北欧5カ国におけるHealth Tech投資額の国別推移(2019〜2022年、単位:百万米ドル)を示したものである。
図2 北欧におけるHealth Tech投資額の国別推移(2019〜2022年、単位:百万米ドル) 出所:Nordic Innovation「Investor approaches and perspectives in Nordic Health Tech」(2023年10月10日)
北欧諸国の中では、デンマークやスウェーデンのHealth Tech投資規模と比較すると、フィンランドは小規模にとどまってきたことが分かる。今後、EHDSを介した多国間データ連携プラットフォームの整備を契機に、どれだけフィンランドへの海外直接投資を呼び込めるかが経済戦略上大きなテーマとなっている。
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