ユーザーと開発者が議論、自動運航船開発の“日本らしい進め方”:船も「CASE」(1/3 ページ)
日本郵船(NYK)グループのMTIは、「Monohakobi Techno Forum 2023」を開催した。このイベントは自動運航船をはじめとする研究開発成果を報告するもので毎年開催されている。
日本郵船(NYK)グループのMTIは、「Monohakobi Techno Forum 2023」を2023年12月4日に開催した。このイベントは自動運航船をはじめとする研究開発成果を報告するもので毎年開催されている。2023年のイベントでも8テーマの報告セッションが行われた。
それらのセッションからこの記事では、自動運航船に関する開発を担う同社 船舶物流技術グループ 自律船チーム長の中村純氏による「自動運航船とMEGURI2040の取り組み」と題する講演を取り上げる。世界で進められている自動運航船の開発現状と、NYKグループの自動運航船開発の取り組み、さらには、MTIが進めている自動運航船開発プロセスのステータスと自動運航船で実現を目指す未来像について紹介する。
自動運航船開発の過程をおさらい
中村氏は、自動運行船に関する世界の状況について「現在、国際海事機関(IMO)においてMASSコード(Maritime Autonomous Surface Ships:自動運航船に関する法的ルール)と呼ばれるものが議論されている」とした上で、この議論は、2020年から2024年末までに非義務化コード(強制力を持たない目標設定タイプの法的ルール)の制定を行い、2026年に義務化コード(強制力を持つ法的ルール)を制定し、2028年の発行を目指して進行中だと説明した。
中村氏は続いて日本における自動運航船開発の状況に関して言及した。そこでは、海運会社、舶用機器メーカー、造船所などを含むコンソーシアムが主体となっており(これがMEGURI2040になる)、その開発内容としては、無人運航機能搭載自動船、有人自動船、それらの遠隔支援などが進められており、利用海域も大洋から沿岸、湾内、河川と全水域にわたっているのが特徴だという。
ちなみに韓国では造船所が主体となって乗組員の運航業務のサポートに重点を置いて開発が進められている他、欧州では研究所やインテグレーターによる開発が行われ、遠隔操船支援、河川などの特定水域に限定した自動運航船の実現を目指しており、各地域で違いがある。
中村氏は、MTIの母体であるNYKグループにおける自動運航船開発の歴史についても紹介した。NYKグループでは既に2016年から国土交通省の支援により、船舶の衝突リスク判断と自動操船に関する研究が進められている。この研究には古野電気、日本無線、東京計器など複数の企業が参加しており、その中では自動運航を実現するために必要な要素技術の研究が進められた。この成果を用いて2018年から2020年にかけての国交省による実証事業で、内航船の操船支援システムの開発に取り組んでいる。
2019年からは「MEGURI2040」プロジェクトのステージ1として、「DFFAS」(Designing the Future of Fully Autonomous Ship)プロジェクトに取り組んでおり、東京湾から伊勢湾までの往復を自動運航する実証実験を行い、99%以上の自動運航率を達成した。さらに、2021年から2023年にかけて、国交省による「海事産業集約連携促進技術開発支援事業」の中で自動運航システムの評価、検証体制の構築にも取り組んでおり、2022年からは2025年度の達成を目指してMEGURI2040ステージ2に取り組んでいる。
MTIが自動運航技術を開発する3つの理由
中村氏は、MTIが自動運航技術に取り組む理由として3つの項目を挙げている。それが、「安全性の向上」「人手不足の対応」「物流の安定」だ。
安全性の向上では、航海事故の8割が人的要因である事実を示し、ヒューマンファクターの考慮が重要であると説明。船舶の大型化や船型の変化による操船性能の低下、都市部航路における輻輳(ふくそう)増大など周囲環境の変化による操船難易度の上昇も問題となっている。人手不足に関しては世界的にも深刻であり、日本においても労働力不足が喫緊の課題とされて久しい。また、物流の安定に関しては、将来的に海上輸送の増大が予測され、国内においてはトラックから海上輸送、鉄道輸送へのモーダルシフトの促進が求められていると中村氏は説明している。
以上のような自動運航技術の開発と社会への実装を求める要望に応えるため、NYKグループにおける自動運航船の開発については、「コンセプト設計」「要素技術の開発」「実証実験」を3本柱として進めている。「どのように自動運航船が必要かというコンセプト設計を実施し、その中から要素技術を切り出す情報収集機能の開発、分析機能の開発、避航計画の策定機能の開発といった各要素技術の開発をパートナー企業と一緒に取り組んできた」(中村氏)
開発パートナーには、国交省や日本海事協会、船舶技術協会と協業を進めているだけでなく、「日本の技術がガラパゴス化しないよう」(中村氏)、海外の専門機関や企業とも連携して彼らの制度評価や検証の知見を取り込んでいるという。特に国内の苦手分野に対しては、海外の知見を取り込んだ研究体制を構築し、その上で日本が開発した技術を世界の標準技術へと導く活動を行っている。
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