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省エネで有価物も得られる新たな窒素循環技術の開発有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(7)(1/3 ページ)

窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は筆者がプロジェクトマネージャーとして進めているムーンショット型研究開発事業の概要をご紹介します。

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新たに構築を目指す窒素循環システム

 これまで、窒素廃棄物の排出による環境影響と、それに対応するための国際/国内の動向、現時点で利用可能な技術について紹介してきました。窒素廃棄物の排出を削減できるさまざまな技術が既に実用化されており、実際の排出削減に大きな貢献をしています。一方で、エネルギー消費が大きい、窒素廃棄物を資源として活用する用途が限定的など、さらなる改善が期待される点についても述べてきました。今回からはいよいよ、こういった残されている課題を解決するための、新たな技術開発の動向について紹介します。

 国内では民間/政府それぞれがさまざまな技術開発を行っています。その中でも、内閣府/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進するムーンショット型研究開発事業の目標4では、「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」を掲げており、その中で窒素化合物を回収、資源転換、無害化する技術の開発を進めています[1、2]。また、大気中に放出される温室効果ガスの一酸化二窒素(N2O)を削減する取り組みも行われています。

 筆者はその中の1つのテーマでプロジェクトマネージャー(PM)を務めています[3]。私たちが構築を目指す、窒素循環システムを図1に示します。

図1 構築を目指す窒素循環システム
図1 構築を目指す窒素循環システム[クリックで拡大] 出所:産業技術総合研究所

 これまで述べてきたように、現在の産業活動では、ハーバーボッシュ法で生産される合成アンモニア(NH3)が、窒素化合物の大半を占めています。それらは肥料や化学品原料などに活用された後、一部は廃棄物として放出されます。

 本連載の第4回第5回で紹介した通り、窒素化合物の多くは、NH3、N2O、窒素酸化物(NOx)として大気中に排出される他、アンモニウムイオン(NH4+)やタンパク質などの有機窒素として水中に放出されます。

 これらのうち一部は既存技術によって無害化あるいは一部は資源化され、その排出量は低減されています。しかし、まだ多くの窒素化合物は環境中に排出されてしまっているだけでなく、無害化/資源化に多大なエネルギーが必要なことなどが課題となっています。

 この課題を解決するために、新たな窒素循環システムを構築することを目指しています。そのシステムでは、大気中のNOxや水中窒素化合物をNH3に変換後、分離/濃縮することで利用可能なNH3資源(循環NH3)とします。この循環NH3を、燃料や合成NH3の代替品として活用していくのです。これを、低エネルギーで実現することで、既存の無害化法よりもコストが低く、ユーザーにとってもメリットがある技術を開発しています。

 筆者がPMを担当しているムーンショット型研究開発事業では、特に排ガス中のNOxと廃水中の窒素化合物をNH3に変換する技術の開発を進めており、他の枠組みで進めている、排ガスからの循環NH3の生産や、生産した循環NH3の利用法と組み合わせ、図1に示したシステムの構築を目指しています。

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