生成AI×設計の現在と未来を見据えた付き合い方:MONOist 2024年展望(3/3 ページ)
今注目のテクノロジーといえば「ChatGPT」に代表される生成AIが挙げられるでしょう。社内情報資産を活用した業務効率化などビジネス利用が進む中、製造業におけるデザイン/設計業務においても生成AIの存在感が増しています。今どのような活用が進んでいるのか? 2024年メカ設計フォーラム新年展望では、生成AI×設計の現在と、未来を見据えた付き合い方について考察します。
AI/生成AIに関する研究開発に注力する3D CADベンダーの動き
一方、ツールベンダーにおいても生成AIに関連した技術開発が進められています。ジェネレーティブデザインの先駆け的存在であるAutodesk(オートデスク)は、2023年11月に米国ラスベガスで開催された「Autodesk University 2023」において、「Autodesk AI」を発表しました。
同社 社長 兼 CEOのアンドリュー・アナグノスト氏はAutodesk AIについて、「クラウドベースの統合環境である『Design&Makeプラットフォーム』と、産業別クラウド(Autodesk Fusion、Autodesk Flow、Autodesk Forma)を強化するものだ」と述べ、Autodesk AIがあらゆる業務プロセスを効率化し、ビジネスの俊敏性、創造性を高められる存在になり得る点をアピールするとともに、ジェネレーティブデザインに代表される同社のAIの取り組みが「Autodesk AIの基礎になっている」(アナグノスト氏)と強調していました。
Autodesk AIは、生産性の低い非創造的な作業を自動化するとしています。また、自動生成の機能として、3Dモデルからの自動図面化、切削加工用ツールパスの自動生成などが実現されるといいます。さらに、買収したBlank.AIの生成AI技術をベースとするコンセプトデザインの探索機能についての紹介もありました。これらの機能が今後どのような形で提供されるのか楽しみです。
Autodeskでいえば、同社研究開発機関のAutodesk Researchで開発をしている大規模製品モデル(LPM:Large Product Model)に関する話を、同社 製造業グローバルマーケット開発&戦略シニアディレクターのデトレフ・ライヒネーダー氏から聞く機会がありました。詳しくは割愛しますが、LPMについてライヒネーダー氏は「設計者が求める製品が何であるかを理解し、製品の動作原理、製造方法、関連する制約などを加味して、要件に基づく全く新しい製品設計案を提示してくれるというもの」と表現しています。詳しくはインタビュー記事をご覧ください。
SOLIDWORKSのR&DでもAIを活用した先進的な研究開発が進んでいます。2023年12月1日に開催された「3DEXPERIENCE World Japan 2023」のために来日したSOLIDWORKS CEO 兼 R&D担当バイスプレジデントのManish Kumar(マニッシュ・クマー)氏は基調講演において、オリジナル家具のデザインに特化したツール「MakeByMe」の先進機能として、与えられたスペースに対してきれいに収まる本棚がAIで自動生成される様子をデモ映像を交えて紹介していました。リリースから約2年間で蓄積した膨大な設計データを学習させることで、AIによる自動設計を実現したとしています。
イベント同日に行われたプレスラウンドテーブルの席で、クマー氏に「将来『ChatGPT』のように3D CADと対話しながら設計のアウトプットが自動生成される世界は来るのか?」と質問したところ、「答えは『イエス』だ。ただ、現段階でどこまで話してよいか具体的に回答するのが難しい。例えば、従来設計が完了していないと作成できなかったフォトリアリスティックなレンダリングイメージを、設計が完了する前にAIで瞬時に生成して消費者からのフィードバックを得るといったことが可能になる。これは非常に小さな例えだが、われわれは今話すことができない非常に多くの素晴らしい取り組みに着手している」(クマー氏)との回答を得ることができました。これが一体どのようなものなのか、どういった形で提供されるものなのかは不明ですが、近い将来、何かしらの発表があると期待しています。
まとめ
2024年のメカ設計 新年展望では“設計×生成AI”をテーマに、ここ最近の注目の動きとその可能性について触れてみました。いかがでしたでしょうか?
「正直まだピンとこない」「どの程度使えるものなの?」といったさまざまな感想があるかと思いますが、業務効率化だけでなく、より良いデザイン、より良い設計の実現に向けて、さまざまな研究開発や実践が今まさに進んでいること、(おそらく)それほど遠くない未来に身近なものになっているであろうことを、本稿をきっかけに認識していただければ幸いです。そして、AIをパートナーに迎え入れたときのことを想像しながら「こんなことができたらいいな」「あんなことができるだろうか」とポジティブな未来を思い描いていただければと思います。
生成AIの活用にさまざまな課題が残されていること、議論が必要であることも事実ですが、これからどんな夢をかなえてくれるのか、今は前向きに、楽しみに見守っていきたいですね。最後になりましたが、読者の皆さま、本年もMONOistをよろしくお願いいたします。
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