Matterでスマートホームは変わる? 光量子コンピュータおじさんに感じるSF的未来:組み込み開発 年間ランキング2023(2/2 ページ)
2023年に公開したMONOist組み込み開発フォーラムの記事をランキング形式で振り返る。1位に輝いたのは、スマートホームの標準規格「Matter」の解説記事でした。
ガスタービン発電機の取材で望外の出会い
ベスト3に入らなかった中から、(編集担当にとって)興味深い記事を紹介しましょう。第8位に入った「空飛ぶ軽トラは可搬重量1トンで飛行距離1000km、ガスタービン発電機で実現」です。
本記事は、2023年6月開催の「Japan Drone 2023」で披露されたガスタービン発電機に関連する展示をまとめたものです。大阪・関西万博でネガティブな意味で注目を集めてしまっている「空飛ぶクルマ」ですが、こちらはペイロード1トンの「空飛ぶ軽トラ」向けの技術となっています。やっぱりこれくらいのド派手さがないと「電動ヘリコプターとは違いまっせ!」とはいえないですよね。
ちなみに取材時に最も驚いたのは、記事内でも紹介しているガスタービン発電機を用いたUAV(無人飛行航空機)の開発に取り組んでいるHIEN Aero Technologiesの説明員が、MONOistメカ設計フォーラムでCAE関連を中心に多数の寄稿をいただいている水野操氏だったことです。めっちゃびっくりした……。
未来を感じた「光量子コンピュータ」、東芝トップを続ける島田氏にも期待
ここからは、MONOist組み込み開発フォーラム年間ランキング恒例(?)の気になるおじさんシリーズです。
年間ランキングで20位に入ったのが『100GHz100コアの「スーパー量子コンピュータ」実現へ、光通信技術が道を開く』という記事でした。NTT、東京大学、理化学研究所、JSTによる共同発表の会見だったのですが、超伝導量子ビットを用いる現行の量子コンピュータの性能を大幅に上回るだけでなく、シリコン半導体で構成される古典コンピュータの性能も超える「スーパー量子コンピュータ」の実現につながる研究成果という内容で、これは何だかすごい話聞いてるという感じがしました。
記事タイトルでは分かりやすく量子コンピュータを超えるから「スーパー量子コンピュータ」と書いてますが、実際には「光量子コンピュータ」を実現する要素技術の発表になっています。この「光量子コンピュータ」という言葉は、平成にやってたウルトラマンで出てきたり、SF小説などに出てくる「陽電子頭脳(ポジトロニックブレイン)」と語感が似てたりとか、まぁとにかく未来を感じさせませんか。
この光量子コンピュータの技術について会見で淡々と解説していたのが、研究を主導する東京大学 大学院工学系研究科 教授の古澤明氏です。2024年中ごろまでに、今回発表した技術を適用した光量子コンピュータをクラウドベースで利用できるようにする方針だとか。研究テーマも面白いですが、その雰囲気から研究者個人に興味を持ったのは久々かもしれません。
もう1人は、紆余(うよ)曲折を経てついに株式非公開化となり、2023年12月22日からの新たな経営体制となった東芝でトップを継続して務めることになった島田太郎氏を挙げておきたいと思います。
いやまぁ、2015〜2016年度の不適切会計から始まった東芝の経営の迷走は本当に長かった。トップに再登板した綱川智氏などが提案した事業3分割案で乗り切れるかと思いきや、“もの言う株主”の反対でそれも頓挫。結局、不適切会計の段階で検討された株式非公開化を経て、日本産業パートナーズ(JIP)をはじめとする国内企業を中心とした企業群の下で再出発することになりました。
事業3分割案を提案した直後に綱川氏からトップを引き継いだ島田氏ですが、果たしてここまでの展開を予想していたのでしょうか。2018年9月にコーポレートデジタル事業責任者としてシーメンスから東芝に移籍したときには、旧UGSやシーメンスPLMソフトウェア時代からMONOistで何度も取材してきた島田氏が、東芝のデジタル変革をけん引することを単純にうれしく思っていました。しかし、東芝のトップになるどころか、株式非公開化の流れでさらに難しいかじ取りを迫られることになるとは……。想像もしない展開です。
一時期は、東芝トップに三菱自動車で副社長兼CFOを務めた池谷光司氏が就任するという報道もありましたが、結果として島田氏がトップの任に当たることは東芝として良かったのではないかと思います。東芝入社当時は社外からデジタル事業責任者を入れるということで注目を集めましたが、島田氏も気付けばもう5年も東芝にいるわけで、これからの経営体制をけん引していくのにふさわしい人事といえるのではないでしょうか。
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