Simulation Governanceの技術カテゴリー「モデルと計算」の診断結果:シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(5)(3/3 ページ)
連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。連載第5回からは、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていく。まずは技術カテゴリーの「モデルと計算」に着目する。
B5「計算時間と計算リソース」
B5「計算時間と計算リソース」は、シミュレーションを実施する場合の物理的、時間的な制約条件になります。リソースが不十分で、期待する時間内に答えが出なかったり、モデルサイズを確保できないために精度が出なかったりといった状況にならないようにする必要があります。
コンピュータ性能は、半導体の性能アップやコンピュータアーキテクチャの進歩により、計算速度は10年で1000倍、記録密度は20年で1000倍(10年では32倍)の向上が図られてきました。そう考えると、昔に比べますと、性能や容量が足りないと感じるストレス頻度はだいぶ減ってきているようにも感じられます。それでも、実験計画法や最適探索を行えば、すぐに数百〜数千回といった計算回数が必要になりますし、現象が複雑になり、精度要求が高まればモデルサイズへの要求も限りがないのです。
最終的には“性能、容量”対“コスト”のトレードオフですから、そこに然るべき予算が振り分けられているかという問題に帰着します。診断ヒストグラムでは、Level3の「普段は十分だが、緊急時に必要なリソース確保が難しい」に集中しています。そこそこのリソースが提供されている一方で、緊急対応がまだ浸透していない状況であることから、今後まだまだクラウド活用が期待されているという見方ができます。
今回のまとめ
いかがでしたでしょうか。シミュレーションを活用する上での基本の“キ”であるはずの「モデルと計算」領域にさえ、大きな課題が潜んでいることがお分かりいただけたでしょうか。平均点としては相対的に高いからと安心してはいけないのです。その中身を詳しく分析すると、モデル化技術、精度保証と向上、実験との関係が未成熟だと、ノウハウ活用、活用手法、管理の仕組みというサブカテゴリーにも影響を及ぼし、うまくいかなくなる可能性を理解しなければなりません。今後も、そうした関連性、依存性を理解しながら、Simulation Governanceの体系を眺めていきましょう。
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筆者プロフィール:
工藤 啓治(くどう けいじ)
ダッソー・システムズ株式会社
ラーニング・エクスペリエンス・シニア・エキスパート
スーパーコンピュータのクレイ・リサーチ・ジャパン株式会社や最適設計ソフトウェアのエンジニアス・ジャパン株式会社などを経て、現在、ダッソー・システムズに所属する。39年間にわたるエンジニアリングシミュレーション(もしくは、CAE:Computer Aided Engineering)領域における豊富な知見やノウハウに加え、ハードウェア/ソフトウェアから業務活用・改革に至るまでの幅広く統合的な知識と経験を有する。CAEを設計に活用するための手法と仕組み化を追求し、Simulation Governanceの啓蒙(けいもう)と確立に邁進(まいしん)している。
- 学会活動:
2006年から5年間、大阪大学 先端科学・イノベーション研究センター客員教授に就任し、「SDSI(System Design & System Integration) Cubic model」を考案し、日本学術振興会 第177委員会の主要成果物となる。その他、計算工学会、機械学会への論文多数 - 情報発信:
ダッソー・システムズ公式ブログ「デザインとシミュレーションを語る」
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