DXとGXで先行する北欧の医療“SX”イノベーション:海外医療技術トレンド(100)(4/4 ページ)
本連載第32回、第45回、第51回、第57回、第90回で北欧諸国のデータ駆動型デジタルヘルス施策を取り上げてきたが、今回は医療に焦点を当てる。
欧州で進む持続可能な医療機器デザイン向けの教材開発
なお欧州全体レベルでは、EUおよびドイツのEITマニュファクチャリング(関連情報)の資金を受けて、トリノ工科大学(関連情報)が調整役となり、ストライカー(関連情報)、GVSグループ(関連情報)、TEM財団、シルバノ・フメロ(関連情報)、アッパーシレジア・アクセラレーター・フォー・コマーシャル・エンタープライズ(関連情報)が参画した教育プロジェクトの「MedTech製造業向けのシステミックデザインと持続可能な医療(SysteMA)」(関連情報、PDF)が展開されている。このプロジェクトに関しては、前述のNCSHも、トリノ工科大学のパートナーとして支援している。
SysteMAは、MedTechやGreenTechの専門家を対象としたトレーニングプログラムであり、持続可能な循環型デザインの専門家、持続可能な医療、企業、MedTechクラスターの専門家が一体となったパートナーシップを通じて、課題に取り組むことを目的としている。特に、以下のような取組に焦点を当てている。
- MedTech製造業における持続可能な循環型医療のトピックに関する認識を向上させる
- まだ取り組まれていないトピックに関するイノベーティブでユニークなトレーニングを提供する
- MedTechの持続可能性に関心のある大規模および中小規模企業、研究機関、センターの幅広い欧州ネットワークを関与させる
SysteMAは、2023年6月に「MedTechデザインにおける持続可能性:設計、手法、ツール、プラクティス」(関連情報)と題するハンドブックを公表している。これは、持続可能性の視点を通じて、セクターの深い理解を追求するMedTech専門家向けに知識とツールを提供するものであり、持続可能な製品開発、ガバナンスとビジネスの戦略、循環型経済といったトピックをカバーしている。加えて、デザイナーやマネジャー向けに実用的なインサイトや実体のある戦略を提供することによって、医療技術における最新のトレンドをカバーし、進化する産業の全体像の探索を可能にするものだとしている。
デザインの視点から見ると、北欧諸国は、病院や介護福祉施設を含む建築物の環境配慮型設計や、製品設計に関わるサステナブルデザインエンジニアリング(SDE)で世界をリードしている。また、ICTの視点からみると、北欧諸国は気温が低く、再生可能エネルギーを利用した電力が比較的安価に入手できることから、Amazon Web Services(スウェーデン)、Apple(デンマーク)、Meta/Facebook(スウェーデン、デンマーク)、Alphabet/Google(フィンランド、デンマーク)、Microsoft(フィンランド、ノルウェー)など、米国の主要クラウドプラットフォーム事業者がデータセンターを設置/展開してきた歴史を有している。
前述のノルディックイノベーションの「北欧のHealth Techに関する投資家のアプローチと視点」(関連情報)より、図4は、調査に回答した投資家の投資先セクター別分布(複数回答可)を示している。
図4 北欧におけるHealth Tech投資のセクター別分布[クリックで拡大] 出所:Nordic Innovation 「Investor approaches and perspectives in Nordic Health Tech」(2023年10月10日)
セクター別にみると、デジタルヘルスが70%強で最も多く、2番目がMedTech、3番目がBioTech/ライフサイエンス、4番目がコンシューマーヘルスとなっている。電子医療記録(EMR)/電子健康記録(EHR)/個人健康記録(PHR)に代表される医療のデジタル化や、ヘルスデータ利活用基盤の構築で先行する北欧諸国のICTプラットフォーム環境を考えると、デジタルヘルスやMedTechに投資が集中する理由も何となくうなずける。このような北欧の強みを、今後の新製品/ソリューション開発にどのように生かしていくのか、日本にとっても参考になる。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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