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世界各地で拡大する医療分野のNFT利用、国内医療機器メーカーも対応を迫られる海外医療技術トレンド(99)(1/3 ページ)

本連載第75回で、医療DXの変革ツールとしてブロックチェーン/分散台帳技術を取り上げたが、今回は、医療分野におけるNFT(非代替性トークン)利用について取り上げる。

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 本連載第75回で、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の変革ツールとしてブロックチェーン/分散台帳技術を取り上げたが、今回は、医療分野におけるNFT(非代替性トークン)利用について取り上げる。

⇒連載「海外医療技術トレンド」バックナンバー

欧米各国で広がる医療NFTの実用化に向けた研究

 2022年12月20日、ドイツ・ミュンヘン工科大学のセバスチャン・シタル氏らは、欧州皮膚科・性病学会の医学専門誌JEADVにおいて、「皮膚科と医療における非代替性トークン(NFTs):医療専門家向けガイド」(関連情報)と題する論文を発表した。この論文は、ナラティブレビューを用いて、現在および将来の医療におけるNFTの適用や、NFTの限界について分析・考察したものである。

 同研究チームによると、NFTは、情報の一部を任意的に表現したものであり、暗号アルゴリズムによりセキュア化された公的台帳を、ブロックチェーン上で生成/交換することができるとしている。本論文では、皮膚科の臨床医用画像を取り上げ、撮影者による生成、患者による所有、医療従事者による閲覧などのプロセスにNFTを適用することによって、検証可能性、透明性のある実行、高可用性、耐タンパー性など、ブロックチェーン技術ならではのベネフィットを享受する可能性について言及している。皮膚科の場合、血液製剤の追跡や、コンセント管理、電子健康記録(EHR)への拡張などの領域で、NFTのベネフィットを生かせる余地があるとしている。

 ただし、医療におけるブロックチェーンの適用についてはさまざまな探究、実装がなされてきたが、NFTについては、医療文献の中で広範囲な研究成果を見いだせるような段階まで至っていないとしている。また、機微な患者データの特性が、検証可能性のベネフィット、患者向けのアクセシビリティー、必要なインフラストラクチャを構築/維持するための技術的スキルなどを制限している点を指摘している。

 医療情報連携/共有におけるNFT利用の観点からは、2023年4月12日、米国・フロリダ国際大学のポーヤン・エスマーイールザーデ氏が、Interactive Journal of Medical Research誌において、「医療組織間の保健医療情報共有の進化:非代替性トークンの潜在的可能性」(関連情報)と題する論文を発表している。本論文は、医療機関を越えた保健医療情報の共有目的で利用される技術の開発と進歩について、説明を試みることを目的としている。

 最初に、伝統的な共有モデル、保健医療情報交換(HIE)、ブロックチェーンベースのHIEの長所と弱点を記述し、次に可能性のある移行先として、医療における情報共有イニシアチブHIEモデルにおけるNFTプロトコル利用の潜在的可能性を提案している。そこでは、潜在的な機会や卓越した機能(例:所有可能性、検証可能性、動機付け)に加えて、デジタル患者データの法的所有権に関する専門的な規制フレームワークの欠如など、NFTの適用に関連した不確実性およびリスクを特定している。

 エスマーイールザーデ氏は、HIEネットワークにおけるNFT利用が、将来に向けた研究の新たな流れを作り出すとした上で、医療における情報共有の取り組みの技術基盤を構築し、初期の形態から拡大させる方法について、実用的な考察を提供している。表1は、地域の医療情報交換(HIE)ネットワークにおけるブロックチェーン利用とNFT利用について比較したものである。

表1
表1 医療情報交換(HIE)におけるブロックチェーンとNFTの比較[クリックで拡大] 出所:Pouyan Esmaeilzadeh「Evolution of Health Information Sharing Between Health Care Organizations: Potential of Nonfungible Tokens」(2023年4月12日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 医療の場合、機微な保護対象保健情報(PHI)を取り扱うことから、ブロックチェーンおよびNFTのいずれでも、専門的な規制フレームワークやガイドライン類の整備が課題となっている。

アジアでもプライバシー保護技術として注目される医療NFT

 このような医療分野におけるNFT適用に向けた研究開発は、アジアの各国/地域でも広がりつつある。例えば2023年1月23日、シンガポール眼科研究所のジェン・リン・テオ氏らの研究チームは、Nature Magazine誌において「ヘルスデータ管理向け非代替性トークン」(関連情報)と題する記事を発表している。

 本連載第93回で、欧州連合(EU)におけるGDPRを起点とするプライバシー保護技術の標準化と産業創出支援活動を取り上げたが、シンガポールの研究チームは、プライバシー保護技術としてのデータのトークン化に対するニーズの拡大に着目している。ここでは、トークン化するトークンを以下のように分類している。

  • プラットフォームトークン:それらが構築されるブロックチェーン上でのトランザクション行為を支援するように設計されたトークン
  • ユーティリティートークン:オーナーに、発行主体からの製品またはサービスへのアクセスを与える
  • ガバナンストークン:分散型匿名組織における利害関係を代表し、ステークホルダー間の制御の分散、すなわち“オンチェーンガバナンス”を可能にする
  • セキュリティトークン:オーナーシップを代表する財産、自動車、株式、債券のような資産のデジタル形式
  • 非代替性トークン(NFT):代替できない単独のオーナーシップの下で、ブロックチェーン上に保存される一意のデジタルデータのユニットで、取引可能である

 表2は、本研究より、NFTフォーマットによるヘルスデータのトークン化の利点を整理したものである。

表2
表2 NFTフォーマットによるヘルスデータのトークン化の利点[クリックで拡大] 出所:Zhen Ling Teo et. Al.「Non-fungible tokens for the management of health data」(2023年1月23日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 その上で、患者、病院、保険者、政府機関、研究機関、ライフサイエンス企業の各ステークホルダー間をつなぐ生物学的データのプライバシー保護ネットワークの可能性について、以下のような点を挙げている。

  • ブロックチェーンが実現する生物学的プラットフォームが、保健医療データ向けの分散型でセキュアな協働ネットワークとして機能する
  • 複数のステークホルダー(患者、病院、政府主体、医薬品企業、研究機関、保険者など)の間のセキュアな保健医療データの交換所を実現する
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