リレーで自作したスポット溶接装置で十字配線ユニバーサル基板をカットする:注目デバイスで組み込み開発をアップグレード(16)(2/3 ページ)
注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。第16回は、近年広く販売されるようになった十字配線ユニバーサル基板の配線をカットするために、リレーを使って自作したスポット溶接装置を紹介する。
そもそもスポット溶接とは
スポット溶接は、接合したい2枚の板状の金属を裏と表から2つの電極で挟み、瞬間的に大容量の電流を流してジュール熱でその接合部の一部を融解させ接合する電気溶接の一種です。先述したDIY用のキットやYouTubeに公開されている事例でいくと、リチウムイオン電池の電極に薄いニッケル板材を接合しています。
スポット溶接機の電極のあて方はそのほとんどがニッケル板側で、接合後の状態を見るとニッケル板に当てた電極の位置に窪みができ、その下に位置するリチウムイオン電池の電極に接合されているようです。その方法はさまざまで、自動車用のバッテリーを電源として使うもの、充電したコンデンサーを使うものもあります。また、これはかなりな強者の製作動画だと思うのですが、電子レンジのトランスの2次側を巻き直す事例までありました。こうなるとかなり本格的で、リチウムイオン電池の電極以外の用途にも使えそうです。
今回の主役はリレー
他の作例やキットは電流の制御にパワーMOSFETを使ったものが多く、以前の「シャー芯に灯をともす」の記事でもパワーMOSFETを使っていたので、今回はリレーを用いる別のアプローチを考えてみました。もちろんパワーMOSFETに不都合などはなく、むしろ機械的なリレーよりも長寿命かもしれません。
ここでリレーについて少し説明をしておきます。日本語で継電器といわれるリレーは、電磁石(コイル)に電気が流れて発生した磁力によりスイッチの接点が引き寄せられて、導通する回路が切り替わる装置です。電磁石によって切り替わるスイッチによって、電磁石に流れる電力よりも高い電圧や大きな電流を制御できます。制御したい側が電磁石の電流を流し、もっと大きな負荷の仕事は電磁石で切り替わるスイッチの先で行うのです。
電磁石によって切り替わるスイッチには3つの接点がありそれぞれ呼び名があります。1つ目は共通接点となるC接点で、そこに接続されたものが、それ以外の接点と導通します。2つ目はA接点で、これはコイルに電流が流れていない時に共通接点と導通している接点です。そして3つ目がB接点で、これはコイルに電流が流れた時、共通接点と導通する接点です。かつてリレーは花形デバイスの一つでした。今でこそコンピュータの主役は半導体ですが、以前はリレーもコンピュータの主要素子としてその覇権を争っていた時期がありました。
現在はご存じの通り計算機業界では見る影もなく、電気設備の一部や自動車の電装部品として使われているのを見かける程度です。筆者が今回用いたリレーも自動車の電装品として流通しているものです。いずれはこれらも半導体に置き換わるであろうことは想像に難くありません。しかし「Maker Faire」に出展する個人やコミュニティーには根強い人気があるようです。10年弱前に執筆した筆者の記事で、そのあたりの様子を書いています。
図1は、今回用いるリレーの外観です。自動車の電装品のリレーで、電磁石は12Vで作動します。電磁石で切り替わる接点は最大80A(アンペア)の電流が流せる仕様です。
スポット溶接装置の設計要件
スポット溶接はDIY用とはいえ、一度に大容量の電流が流れるため安全面の配慮が必要です。そこでこの装置の要件を3つにまとめてみました。
- 要件(1)大容量の電流はスポット溶接を行う一瞬だけ流したい
- 要件(2)再度の大容量の通電までには少し時間を空ける
- 要件(3)リレーの接点寿命に配慮
まず要件(1)ですが、スイッチを入れっぱなしあるいは電極が母材と導通している状態でも、大容量電流は一瞬の一定時間のみ流す。これは装置自体が過電流で破損したり、溶接対象物が損傷したりすることを防ぐためです。スポット溶接に要する時間はほんの一瞬ですので、適切な時間を設定してそれ以上電流が流れないようにします。ジュール熱は電流を流す時間に比例しますから、スポット溶接の対象部分に対して適切なジュール熱を与えるためには、この時間のコントロールが肝になってきます。
要件(2)も安全のためですね。一般的なスポット溶接作業では、同じ場所を短い時間に何度も溶接することはないので、連続して電流が流れないように時間を少しあけます。
今回用いるリレーは機械式なので接点回数に寿命があります。そこで、接点が不必要にバタつかない配慮としての要件(3)が必要になります。
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