稲作の中干し期間延長でJ-クレジットを取得し環境配慮と農家の収益拡大を支援:スマートアグリ(2/2 ページ)
ヤンマーマルシェとNTTコミュニケーションズは、稲作農家などの生産者の新たな収益源としてカーボンクレジットの1つであるJ-クレジットの創出に関する取り組みを開始すると発表した。
今回の取り組みを実施する背景
近年は、地球の気温上昇を抑えるために、さまざまな国や組織がカーボンニュートラルの目標を掲げている。例えば、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で2015年に採択された「パリ協定」では平均気温上昇を産業革命以前と比べ1.5℃に抑える努力を推奨し、日本では2020年10月に2050年までにGHGの排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラル宣言を行っている。
カーボンニュートラルを目指すためのアクションとしては、省エネルギー、再生エネルギーの活用、使い捨て容器の利用を控えるなどの行動変容、植林があり、自助努力でカーボンニュートラルを達成できない企業ではカーボンクレジットを購入し、CO2排出量の削減を図るケースもある。
国内外でカーボンクレジット市場は急激に拡大しているという。世界のカーボンクレジット発行量は年々増加しており、2030年には取引金額が7兆5000億円に到達すると試算されている。国内では2030年までに1500万t-CO2のクレジットが認証されており、2023年10月に東京証券取引所でカーボンクレジット市場が開設される予定だ。
また、2050年度における農林水産分野でのGHG排出量の削減効果は約4700万tと見込まれており、カーボンクレジットで約2兆円の経済波及効果を持つという。そのうち、2900万tは農業が占め、カーボンクレジットによる経済効果は1.5兆円とされている。
しかし、農業は、2年前と比べ肥料の価格が5割、飼料の価格が4割近く上昇し、農業就業人口も2009〜2019年にかけて92万人減少しており、担い手が減っている。加えて、地球温暖化による影響で米の品質低下が起き、食生活の多様化により米の消費も年々減少傾向にある。
さらに、稲作を行う水田では土壌の有機物、肥料、灌水によって地中のメタン生成菌が活性化し、メタンガスが発生する。中干し期間の延長や間断灌水などによって、水田から水を抜くことでメタンガスの発生を抑制できる。
そこで、ヤンマーマルシェとNTTコミュニケーションズは、水田でメタンガスの発生を抑えるとともに、農家がJ-クレジットの認証取得により収益の拡大を図れる今回の取り組みを開始した。
菊池氏は「水田で生じるメタンガスを減らすのに重要なのは落水(水田の水を抜くこと)期間を伸ばすことだ。通常の水稲栽培では中干し期間が6〜7月で、中干しを行い稲の過剰生育を抑えるケースもある。(当社の調べによれば)中干しの期間をこれまでと比べて7日間延長することメタンガスの発生量を30%抑制できることが分かっている。水田から発生するメタンガスは日本全体で生じるメタンガスの40%を占めており、その排出量削減は政府の温暖化対策にも位置付けられている」とコメントした。
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