15億円かけて低温定着トナーの製造ラインを増設、年間生産能力を約30%向上:工場ニュース
富士フイルムビジネスイノベーションは、生産子会社である富士フイルムマニュファクチャリングの富山事業所でレーザープリンタ用のトナー「Super EA-Ecoトナー」の製造ラインを増設すると発表した。
富士フイルムビジネスイノベーションは2023年7月19日、東京都内で会見を開き、生産子会社である富士フイルムマニュファクチャリングの富山事業所(富山県滑川市)でレーザープリンタ用のトナー「Super EA-Ecoトナー」の製造ラインを増設すると発表した。
今回の増設によりSuper EA-Ecoトナーの年間生産能力を約30%アップする。主な投資内容はSuper EA-Ecoトナーの製造ラインの増設と同トナーの新製造プロセスの導入で、総投資金額は約15億円。着工時期は2023年7月28日で稼働開始時期は同年12月を予定している。
増産するトナーは従来品より定着温度を最大で35℃低減
富士フイルムビジネスイノベーション 執行役員の友納睦樹氏は「Super EA-Ecoトナーの高い環境性能と高画質が高い評価を受け、OEM(納入先の商標による受託製造)や外販の需要が拡大している。この需要の拡大に対応するために今回のライン増設を決定した」と話す。
増設する製造ラインで生産するSuper EA-Ecoトナーは、従来品の「EAトナー」と比べ、トナーの定着温度を最大で35℃低減し、トナー定着時の消費電力を減らせる。この消費電力の低減により、EAトナーを利用するケースと比較して、複合機やレーザープリンタ使用時のCO2排出量を54%削減でき、脱炭素社会の実現に貢献する。
さらに、Super EA-Ecoトナーの製造で「EA製法(乳化重合法)」を採用することで均一な粒径と形状のトナーを実現しているだけでなく、トナーを小粒径化している。これにより、感光体に付着しているトナーの紙への転写効率を向上し、転写されるトナーの厚みも薄くして、トナーの消費量を削減した。
トナーの小粒径を実現したことで、細かな文字や細線をより明瞭にプリントでき、文字の再現性が向上した他、ドット形状の再現性も高まり、よりスムーズな階調表現を可能にした。
ラインの増設に併せて富山事業所に導入するSuper EA-Ecoトナーの新製造プロセスは、トナー材料の微粒子化製法が対象となる。添加材が不要になることで、従来プロセスにおける添加剤の除去工程やそれに伴うエネルギー消費がなくなる。このため従来プロセスと比べCO2排出量を12%減らせる。
レーザープリンタのプリントの仕組みと提供するトナーの変遷
レーザープリンタは、帯電、露光、現像、転写、定着という5つのプロセスでプリントを行う。まず、レーザープリンタ内の感光体全体にマイナスの電荷を帯びさせる。次に、感光体の一部にレーザー光を当て、光を当てた場所にプラスの電荷を帯びた鏡像を作る。その後、プラスの電荷を帯びた鏡像にマイナスの電荷を帯びたトナーを付ける。続いて、プラスの電荷を帯びた紙にマイナスの電荷を帯びたトナーを付ける。最後に、定着ロールで熱と圧力をかけ、トナーを溶かして紙に染み込ませる。
富士フイルムビジネスイノベーションは2001年以前、レーザープリンタを対象としたトナーとして、原料を混練したものを細かく粉砕する「混錬粉砕製法」を採用した「粒径粉砕トナー」を販売していた。2001年からは、乳化重合樹脂粒子や顔料粒子、ワックス粒子を湿式中(水中)で凝集/合一し、トナー粒子を形成するEA製法を採用したEAトナーを販売している。
2008年からは、特定の温度帯で急速に溶けるシャープメルトポリエステルと、緩慢に溶けるノーマルポリエステルを独自の乳化凝集技術により低温定着させる製造プロセスおよびEA製法を採用した「EA‐ECOトナートナー」を販売。2016年からは、シャープメルトポリエステルの微分散技術の開発により、トナー耐熱性を維持したまま低温定着性を実現する製造プロセスとEA製法を採用したSuper EA-Ecoトナーを販売している。
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