図面データ活用における課題 〜類似図面が増え続ける悪循環からの脱却〜:大変革時代の設計者 部門連携とデータ活用の重要性(3)(1/2 ページ)
大変革時代を迎える製造業。従来の縦割り、属人化したモノづくりから脱却し、全ての工程でのプロセス改革を実現するには、図面データや発注実績などの製品データを活用した部門間連携が欠かせない。連載第3回では図面データを活用する際の課題と、図面データの資産としての可能性について解説する。
前回は部門間連携ができていないことによる問題や、データの利活用における製造業の課題と、図面データを全社的に活用できるように変えることの必要性を紹介しました。今回は実際に図面データを活用する際の課題と、図面データの資産としての可能性について見ていきます。
その図面の作成は本当に必要? 過去図面の活用の不足、図面資産の埋没
設計部門では、お客さまの希望仕様に基づいて設計を行い、その内容を図面に落とし込んでいきます。案件の内容や、機械の種類によって異なりますが、数枚〜数十枚の図面が作成されます。場合によっては、100枚を超える図面が作成されることもあるでしょう。このように、たくさんの図面を準備する必要がありますが、全ての図面を新たに作らなければならないのでしょうか?
新規の開発製品であれば、全く新しい機能、構造、材質が用いられるため、全ての図面を新たに作る必要性は高くなります。しかし、既存製品を希望仕様に合わせて改造、変更、別部品の取り付けなど行うような場合、過去に類似した設計を行っているかもしれません。類似設計の部品は、そのまま別の案件でも使える可能性があります。さらに、その部品を取り付けるために設計した金具なども、そのまま流用できるかもしれません。もし、そのまま使えるのであれば、新たに図面を作る必要はありません。部品表に図面番号と数量を記載するだけで済みます。
前回、部門間連携ができていないことによる問題において、“過去の設計事例を検討することなく、全てを新たに設計して図面を作成し、そのまま他部門へ流してしまうと、各部門で多くの工数が発生して、大幅なコスト上昇を招く”と紹介しました。作成する部品や、企業ごとの業務の流れによっても異なりますが、当社が聞き取り調査した某大手メーカーにおける試算では、新図を1枚作った場合に発生する追加のコストは、全体で合計200万円にも上ることが分かりました。もし、そのままの図面で製造して使える部品であれば、この追加コストは不要となります。工数の増加による納期への影響も減少できます。
仮にそのまま使えないとしても、少し長さを変えたり、穴の位置や大きさを変えたりすれば使える図面は多くあるはずです。CADを使って作成した図面ならば、そのデータに変更を加えて新たに図番を付与すれば新規図面が完成します。全てを新しく作成するよりも時間がかかりません。図面の登録作業や帳票類の作成は必要ですが、加工に関しては、流用した図面の情報があれば検討する工数を削減できます。
このように、過去の図面データを有効に活用できれば、同じ作業を繰り返す必要がなくなりコスト削減につながるのです。しかし、実際には設計のたびに図面が流用されることはあまりなく、新たな図面が多く作られてきました……。設計者の方々は口をそろえて「探すよりも描いた方が早い」と言います。ここが、図面データ活用における大きな課題です。
図面が探せない! 膨大な過去の紙図面、
図面番号や図面名でしか探せない図面管理システム
図面データの活用を阻む大きな要因の1つが、図面データの検索性の悪さです。
図面には図面名、図面番号が割り振られています。図面番号は、型式や部品の種類、取り付け位置などを表す記号、作成年月日、通し番号、変更履歴記号などを組み合わせて割り振られていることが多いです。図面名に関しては、明確なルールを決めて割り振っている場合もありますが、設計者が部品の役割、機能などを基に各自で付けていることが多くあります。CADで作成されている場合は、ファイル名が図面番号のみであったり、図面名と組み合わせて割り振られていたりと、独自のルールで運用されていることもあります。
このように分類されている図面の中から、現在設計している製品に使えるものを探すことは至難の業です。設計部門に長く在籍している人がいて、その人に聞けば分かるかもしれません。同じお客さまからの依頼であれば、前の担当者に聞くか、過去の設計を当たっていくことで探せる場合もあります。そうでなければ、ファイル名や図面番号、図面名から推測して探すことになります。
図面管理システムにより、ファイル名、図面番号に加え、お客さま名や時期などで候補を絞り込めるかもしれません。ビュワーでファイルの中身もある程度まで見られます。しかし、実際にはファイルを開かないと正確なところが分からず、流用できる部品なのか判断つかない場合がほとんどです。探すまでに多くの時間がかかり、見つからない場合もあります。「探すよりも描いた方が早い」となるのは当然かもしれません。結果として、「ブラケット」「ステー」「止め板」のように、違う名前の同形状、類似形状の部品図が増えていき、より検索を困難にしていきます。
また、過去の紙図面の存在も問題です。CAD化される前に出力されてファイルで保管されたもの、またはCAD化された後に電子データと合わせて出力されて保管されたものが、倉庫に大量に置いてある会社は今も少なくないと思います。型式や年代、お客さま別に分類されていたとしても、人力でファイルの中身を確認しなければならず、そこから該当の図面を探し出すのには多くの時間が必要です。古いものなので流用は行わないにしても、お客さまから古い装置のメンテナンス部品を求められた際には、探し出す必要があります。一生懸命探しても結局見つからず、「お客さまから壊れた部品を送付してもらい、それを参考に近い部品を作って何とかした」という方もいるのではないでしょうか?
価値あるデータが大量にあっても、使いたいものが簡単に見つけられて気軽に利用できなければ、結局価値のないものになってしまいます。図面データの活用では、それが電子データでも紙データであっても、図面に記載されている全ての内容をキーとして検索できるシステムを構築することが重要です。
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