金属3DプリンタによるAMで先行する海外勢への日本の対抗策とは何か:金属3DプリンタによるAMはなぜ日本で普及しないのか(3)(2/2 ページ)
本連載では、日本国内で何が金属3DプリンタによるAM実製品活用の妨げとなっており、どうすれば普及を進められるかを考察する。今回は、実製品活用で先行している海外勢への対抗策について考える。
AMサービスビューロの活用や技術情報の共有でスタートダッシュを
日本AM協会の前身である任意団体3Dものづくり普及促進会が協力した、2020年の経済産業省近畿経済産業局による事業「Kansai-3D実用化プロジェクト」では、大手企業5社、中小企業32社を実施対象として、各種AMの検討(パーツ選択、設計変更)、造形(樹脂、金属)、検証(品質)を行い、実施報告書作成および成果発表において、参加企業含め多くの企業から高い評価と共感を得ています。
この事業には、大学や公設試(都道府県の工業技術センター)や研究機関から、造形や技術アドバイスの協力も得ています。国内の大学、公設試験研究機関には、AMについての多くの技術蓄積やデータがあり、これらを活用することこそが、海外から遅れている国内AM実製品活用へのスタートダッシュをもたらすと考えます。
3. AMの知見を持った企業(AMサービスビューロ)の活用
AM造形の知見を持った国内企業はどこかを考えると、当然、AM装置メーカーと思われるかもしれませんが、私はAMサービスビューロ(造形請負企業)だと思います。
装置メーカーより、さまざまな企業からいろいろな設計形状の造形を受け、成功/失敗事例を経験したサービスビューロは、AM造形のプロフェッショナルです。ただし価格と納期だけの効率を重視したAMサービスビューロではなく、問い合わせ時にAMの技術的内容(メリット/デメリット、リスクや問題点など)の打ち合わせに対応できるサービスビューロを活用すべきです。
日本AM協会の会員には、この点に対応できるサービスビューロの企業が所属しています。それらの企業はAM活用(ビジネス)促進のために、現時点ではAM技術の囲い込みよりは公開が優先すると考えているからです。
造形依頼企業の個別形状やAM造形による技術情報は個々企業の情報(ノウハウ)なので公開はできませんが、サポート造形の有無や付き方、造形時の熱歪有無(アスペクト比)、造形配置による造形効率など過去のAM造形経験から蓄積された基本的AM技術情報については、AMサービスビューロとの接触により効率的に情報入手できると考えます。
4. AM活用事例や基礎的情報(技術)の共有
国内の多くの企業において現在必要なAMの技術的情報には、基礎的情報が多く、これらは世界から遅れる国内AM活用においては、ほとんどが隠すべき企業ノウハウになりません。
設計試作コピー出力用途が主の国内AM技術については、その多くを基礎的情報として国内企業で共有し、AM実製品活用へのスピードアップに活用すべきです。それくらい国内はまだAMの基礎的情報に飢えていると考えます。
企業の思考が早く実製品活用に向けられるように、可能な限りAM技術情報は公開していくべきでしょう。国内の多くの企業が、まだAMについて基礎的レベルアップをしなければならない状態なのです。
次回は、いよいよ企業としてAM実製品に取り組むために、やるべきことは何かについて記載いたします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 金属3Dプリンタの導入割合や最も多い用途とは、調査で浮かび上がる金属AM動向
MONOist編集部は「金属3Dプリンタ動向調査」を実施した。調査期間は2023年3月9〜22日で、有効回答数は355件だった。本稿ではその内容を抜粋して紹介する。 - 金属3Dプリンタが日本製造業にもたらす影響とは、最新動向と今後の展望
2022年11月8〜13日まで東京ビッグサイトで開催された「第31回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2022)」において、近畿大学次世代基盤技術研究所 技術研究組合 次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)の京極秀樹氏が「金属積層造形技術の最新動向と今後の展開」をテーマに講演を行った。 - 航空機で導入進む金属3Dプリンタ、自動車の量産採用も時間の問題か
GEアディティブは「第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)」(2022年11月8〜13日、東京ビッグサイト)において、同社の金属3Dプリンタを用いた航空機部品などを多数展示した。 - 金属積層造形後のワークをロボットが運んで計測、芝浦機械がプロセス自動化を訴求
芝浦機械は「第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)」(2022年11月8〜13日、東京ビッグサイト)のAMエリアで、金属3D積層造形機「ZKシリーズ」を紹介するととともに、移動型双腕ロボットとの組み合わせで造形プロセス全体の効率化を訴えるデモンストレーションを披露した。 - 広がる金属3Dプリンタと工作機械の融合、それぞれの技術方式の特徴
2020年11月16〜27日にオンラインで開催された「第30回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2020 Online)」において、主催者セミナーとして、東京農工大学 工学府 機械システム工学専攻教授の笹原弘之氏が登壇。「金属材料のAdditive Manufacturingの基礎から見える未来予想」をテーマとし、金属AMの代表的ないくつかのプロセスの基本原理とメリットやデメリットについて述べるとともに、国内外の金属AMの最新動向について紹介した。 - いまさら聞けない 3Dプリンタ入門
「3Dプリンタ」とは何ですか? と人にたずねられたとき、あなたは正しく説明できますか。本稿では、今話題の3Dプリンタについて、誕生の歴史から、種類や方式、取り巻く環境、将来性などを分かりやすく解説します。