AMを実製品に活用するためには何から取り組めばいいのか:金属3DプリンタによるAMはなぜ日本で普及しないのか(2)(2/2 ページ)
本連載では、何が金属3DプリンタによるAM実製品活用の妨げとなっており、どうすれば普及を進められるか考察する。今回は、AMを実製品に活用するには何からどのように取り組めばいいのかについて考える。
品質保証リスクの大きい部品(駆動部品、高安全性部品)以外でのAM活用
海外では航空機エンジン部品や自動車部品でのAM実製品事例が多く見られますが、駆動部品でAMを活用する場合は、各種試験や品質保証などの実証確認事項が多岐にわたります。
AM実製品活用の経験や事例がない国内において、これらのハードルを越えてAM実用するには、膨大な時間と費用を必要とします。しかし駆動部品以外でのAM活用は、実証確認ハードルが低くなるのではないでしょうか。
実際に数少ない国内事例や、AM実製品開発研究テーマにおいてその傾向が見られます。その事例の1つが熱交換器です。熱交換器は複雑一体化の構造設計をすることで、効率向上、納期短縮、小型化を実現でき、その特徴こそAM活用のメリットになります。また、組み立てやロウ付け溶接などによる品質上のリスクを、AMの一体造形で解決できると考えます。
しかし、これらの用途でのAM実製品活用が簡単にできる訳ではありません。AM用材料変更での品質検査確認や、精度が必要な部分への後加工(ポストプロセス)技術の取得など、ハードルは幾つもあります。それでもAM実製品活用の近道のためには、駆動部品や高安全性部品以外を初期段階では選択することをお勧めします。
設計変更が必要ない用途でのAM活用
現工法での製品設計をAM用に設計変更して、活用メリットを出せるようにするのは容易ではありません。最終的なゴールはAM用に設計した実製品ですが、それには品質保証も含めて長い時間を要します。それまでの間に少しでもAM実製品の事例(経験)を得るのであれば、現設計形状製品の補修や耐摩耗対策異種金属コーティングや保守品製造用途でのAM活用をお勧めします。
人手による溶接肉盛り補修からの置き換え
補修用途や異種金属コーティング用途では、人手による耐摩耗対策の異種金属肉盛り溶接から、DED(Directed Energy Deposition)方式の金属AM装置に置き換えを行うことが可能です。
既に人手による溶接でできているとは言っても、熟練した技術が必要で人材に限りがあるのは明白です。人手による作業では、作業(品質)のバラツキなどのリスクも発生します。またロボットによる溶接肉盛りを行っている場合においては、パワー(入熱)が大きいロボット溶接で発生する熱ひずみ対策のための工程が多くなります。
熱ひずみ対策が必要な薄い基材への肉盛り作業において、レーザーパワーの小さいマルチレーザーヘッドDED装置を使用すれば、熱歪を軽減したAM加工が可能です。
保守部品においてAM活用は、型なし在庫レスを可能にすることを多くの方がご存じの通りです。しかしこれら用途でのAM活用においても、簡単にAMが代替できる訳ではありません。AM用材料へ変更に伴う品質検査確認や、精度が必要な部分への後加工(ポストプロセス)技術の取得など、ハードルはいくつもあります。
それでも、形状設計変更が不要な用途でのAM活用は、実製品でのAM活用技術(経験)を向上させるのには、形状設計変更を伴うAM活用よりは近道なのではないでしょうか。
次回は、AM活用の知見が高まり、いよいよAM実製品に取り組む際に、先行している海外に対抗するすべについて記します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 金属3Dプリンタの導入割合や最も多い用途とは、調査で浮かび上がる金属AM動向
MONOist編集部は「金属3Dプリンタ動向調査」を実施した。調査期間は2023年3月9〜22日で、有効回答数は355件だった。本稿ではその内容を抜粋して紹介する。 - 金属3Dプリンタが日本製造業にもたらす影響とは、最新動向と今後の展望
2022年11月8〜13日まで東京ビッグサイトで開催された「第31回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2022)」において、近畿大学次世代基盤技術研究所 技術研究組合 次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)の京極秀樹氏が「金属積層造形技術の最新動向と今後の展開」をテーマに講演を行った。 - 航空機で導入進む金属3Dプリンタ、自動車の量産採用も時間の問題か
GEアディティブは「第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)」(2022年11月8〜13日、東京ビッグサイト)において、同社の金属3Dプリンタを用いた航空機部品などを多数展示した。 - 金属積層造形後のワークをロボットが運んで計測、芝浦機械がプロセス自動化を訴求
芝浦機械は「第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)」(2022年11月8〜13日、東京ビッグサイト)のAMエリアで、金属3D積層造形機「ZKシリーズ」を紹介するととともに、移動型双腕ロボットとの組み合わせで造形プロセス全体の効率化を訴えるデモンストレーションを披露した。 - 広がる金属3Dプリンタと工作機械の融合、それぞれの技術方式の特徴
2020年11月16〜27日にオンラインで開催された「第30回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2020 Online)」において、主催者セミナーとして、東京農工大学 工学府 機械システム工学専攻教授の笹原弘之氏が登壇。「金属材料のAdditive Manufacturingの基礎から見える未来予想」をテーマとし、金属AMの代表的ないくつかのプロセスの基本原理とメリットやデメリットについて述べるとともに、国内外の金属AMの最新動向について紹介した。 - いまさら聞けない 3Dプリンタ入門
「3Dプリンタ」とは何ですか? と人にたずねられたとき、あなたは正しく説明できますか。本稿では、今話題の3Dプリンタについて、誕生の歴史から、種類や方式、取り巻く環境、将来性などを分かりやすく解説します。