製造業にとってアジャイル開発の導入がどのような未来につながるのか:製造業のためのアジャイル開発入門(4)(2/2 ページ)
複雑性/不確実性に対応するためソフトウェア開発業界で広く採用されている「アジャイル開発」の製造業での活用法を紹介する本連載。第4回は、製造業でソフトウェア開発に従事していた筆者の経験を踏まえて、アジャイル開発の導入がどのような未来につながるかを説明する。
アジャイル開発が作る未来
「思っていたものと違う」といわれる開発の裏側で起きていたことには、実は共通点がありました。それは誰のための価値なのかということが置き去りにされているということです。
一方で、アジャイル開発は顧客やユーザーから高頻度のフィードバックをもらうことで、ユーザーが何に価値を感じるかを学んでいきます。さらに学んだことを生かし、作るものをアップデートしていくことで、当初考えていたものよりも良いものを作ることができます。
そして、この考え方は製造業でも生かすことができます。ただし、製造業ならではの難しいところがあるので注意が必要です。それはハードウェアが絡むことで、短期間でリリースすることができない、作ったものを変えるためのコストが高い、といった点です。
このようなケースでは、シミュレーターやミニチュアを使うといった工夫をすることで、低コストで開発し、高頻度でフィードバックを得ることができます。上記以外にも、皆さんの現場にあった工夫を考え、今よりも多くのユーザーからフィードバックを受け取りましょう。そうすることで、ユーザーが喜ぶソフトウェアに近づき、市場での競争力を高めることにつながっていくと思います。
千里の道も一歩から
アジャイル開発を製造業でも生かせるということは前述した通りなのですが、残念ながらアジャイル開発は、導入したらいきなり技術力がつくとか、投資できる金額が増えるという話ではありません。
また、アジャイル開発を理解しないままプラクティスだけを導入しても、結局その価値が分からずに導入前の状態に戻ってしまう話もよく聞きます。
その点を踏まえて、最後にアジャイル開発を導入する過程で大切にしたい、組織に広めるプロセスについてお話します。
アジャイル開発を導入するには、組織の文化やプロセスを変える必要があります。しかし、組織にいきなり変化を起こすことはできません。書籍やWebサイト上で気軽に勉強できるようになったとはいえ、誰もアジャイル開発の経験がない中での実践は、これまでの組織文化の延長で解釈したり、アジャイル開発の本質を理解しないまま取り入れてしまったりしやすいため、はじめは社内もしくは社外の有識者に伴走してもらうことをお勧めします。そして実践者とともに、まずは集中できる1チームから小さく実践することで、体験を通してアジャイル開発を理解し、説得力をもって組織に浸透させることができます。
アジャイル開発の実践がうまくいき始めたら、社外の評判を使ってプレゼンスを上げてみましょう。
自分たちの取り組みを発信することで、社外からのフィードバックを得たり、実践者がお墨付きをくれたりするかもしれません。その評判を耳にした人が新たな協力者となってくれることも期待できます。その結果社内での協力が得やすくなったり、実践するチームを増やすきっかけになったりなど、あなたの推進力にも拍車が掛かることでしょう。
また、そこでできた人のつながりから、新たな知見を得て、新しい挑戦をする機会になるとさらにいいですね。そして、この活動を通じて自分たちの活動を自分たちで定期的に振り返り、より良い価値を提供できるチームへと成長していきましょう。
まとめ
今回は「思っていたものと違う」といわれる開発から脱却するためにアジャイル開発がどう役に立つのか、という点を私自身の経験を思い起こしながら書いてみました。本記事を読んで少しでも共感するポイントがあったなら、一度周りの同僚の方とアジャイル開発についてお話をしてみたり、取り組んでみたりしていただけたなら幸いです。
筆者プロフィール
J.K(コサカ ジュンキ)
小坂 淳貴(こさか じゅんき)
アジャイルで日本から世界を楽しく! アジャイルの世界とエンジニアコミュニティーにどっぷりハマっている元製造業の人。開催した研修から200人の有資格者を輩出。現在はアジャイルとスクラムの専門家としての知識や経験を生かしながら組織開発に従事。カンファレンス運営などを通じ、日本にアジャイルが楽しく広まることを夢見て日々活動中。一般社団法人AgileJapan EXPO代表理事も務める。
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