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製造業のアジャイル開発導入における6つのポイント【2】アジャイルを広める製造業のためのアジャイル開発入門(3)(1/3 ページ)

複雑性/不確実性に対応するためソフトウェア開発業界で広く採用されている「アジャイル開発」の製造業での活用法を紹介する本連載。第3回は、製造業のアジャイル開発導入における6つのポイントのうち「アジャイルを広めていく」という観点から残りの3つを紹介する。

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 前回の本連載第2回記事「製造業のアジャイル開発導入における6つのポイント【1】ユーザーが喜ぶものを作る」では、「製造業における」アジャイル開発導入時に有効だったポイントを3つ紹介させてもらいました。第3回となる今回は、前回に引き続き、6つのポイントのうち残りの3つのポイントを紹介していきます。

 前回のテーマは「ユーザーが喜ぶものを作る」でした。今回のテーマは「アジャイルを広めていく」です。1チーム目の始め方や2チーム目以降の広げ方も書いていきますので、アジャイル開発を始めようとしている方も、既にアジャイル開発を実践している方も楽しんでいただければと思います。ポイントの読み方や使い方は前回の記事を参照してください。

⇒連載「製造業のためのアジャイル開発入門」バックナンバー

ポイント(4):集中できる1チームから始める

概要

 1チーム目に入るメンバーを決め、その1チームのみでアジャイル開発を始めよう。また、これまで担当していた業務との兼務はやめよう。チームが新しい考え方、やり方に集中できる環境を用意しよう。

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集中できる1チームから始める
集中できる1チームから始める[クリックで拡大]

状況

 あなたはIT部門の開発部署の管理職である。部署に所属するメンバーは30人。社員が10人、パートナー会社のメンバーが20人である。ハードウェアエンジニアと比べ、ソフトウェアエンジニアの人数は少ないため、社外のメンバーと協力して開発を行っている。

 そんな中、「アジャイル開発で成果をあげている」という他社の事例がここ数年増えており、その中には大手製造業の名前も目に入るようになってきた。こういった社外での大きな流れもあり、社内でもアジャイル開発の熱が高まっている。

 「われわれもアジャイル開発をやってみよう!」――経営層からのメッセージもあり、社内で初のアジャイル開発に挑戦してみよう! と奮起したところである。とはいえ、あなたの周りにはアジャイル開発経験者は一人もいない。すぐにできることということで、一通りネットの記事を読み、アジャイル開発の概要を頭に詰め込んだ。アジャイル開発を試してみるプロジェクトも決まり準備万端と言いたいところだが悩ましいこともある。既存のプロジェクトも走っていることだ。

 このような状況でどのように進めていくか考えてみた。採用するフレームワークは日本で最も使用率が高いスクラムにする。6人を1チームとした5チームを作ってみよう。そして既存のプロジェクトと新しいプロジェクトを半々でこなす。これであれば既存の業務も回せそうなので問題もなさそうだ。

問題

 スクラムの良さを感じられないまま3カ月後にアジャイル開発の中止を決断。「うちは特殊なのでアジャイル開発は合わなかった」という報告を行い、全社的にアジャイル開発を控えることになる。エンジニアに感想を聞いてみると「開発時間が取れなくなった」という意見が多かった。管理職に聞いてみると「以前と比較すると書けたコード量が半分以下になり、生産性が落ちた」という意見が多かった。

具体的なアクション

 以下のようなアクションを実施していこう。

一度に複数チームを立ち上げることを避け、1チームから始める

 理由はさまざまだが、部署に所属するメンバーが多い場合、全員でアジャイル開発を始めたくなることがある。アジャイル開発に限らず、未経験者が新しいことを始めた当初はあまりうまくできないことが多い。1チームから始めることでこの影響を最小限にできる。また、最初の1チームが実践から学び経験者となることで2チーム目以降の立ち上げを支援できる。変化の段差を許容できるサイズにしていこう。

他のプロジェクトとの兼務を避け、新しいプロジェクトに集中する

 アジャイル開発を始める上で、最もよくある妨害は「兼務」である。兼務の数は多ければ多いほど集中できなくなる。特によくあるパターンは既存プロジェクトとの50%ずつの兼務である。新しいことを覚え、実践していくことは非常に脳の負荷が高い。新しいプロジェクト1つに集中できる環境を作り、学習効率を飛躍的に上げていこう。

実施後の結果

 開始から半年後、最初は慣れないアジャイル開発であったが、チームがアジャイル開発のリズムに慣れてきた。特に最初はうまくいかないことが多かったが、1チームのみだったこともあり、心穏やかに見守ることができた。どんどん良くなってきているが、まだまだ伸び代もある。周りからの期待も少しずつ高まっているのも感じる。

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