製造業のアジャイル開発導入における6つのポイント【1】ユーザーが喜ぶものを作る:製造業のためのアジャイル開発入門(2)(1/3 ページ)
複雑性/不確実性に対応するためソフトウェア開発業界で広く採用されている「アジャイル開発」の製造業での活用法を紹介する本連載。第2回は、製造業のアジャイル開発導入における6つのポイントのうち「ユーザーに喜んでもらう」という観点から3つを紹介する。
本連載の第1回記事「アジャイル開発とは何か、まずは基礎を知ろう」では、アジャイル開発そのものについて説明させていただきました。第2回となる今回の記事では、製造業におけるアジャイル開発の導入時に有効だったポイントを幾つか紹介していこうと思います。
紹介していくポイントは全部で6つです。第2回と第3回の2回にわたり、3つずつ紹介していきます。初回となる今回は「ユーザーが喜ぶものを作る編」です。ユーザーが喜ぶものを作るためには、ユーザーをより深く学ぶこと、そして学び続けていく必要があります。「アジャイル開発をやってみたけど結局何が良かったか分からなかったなぁ……」といったことにならないように、ユーザーが喜ぶものを作っていきましょう。
ポイントの読み方と使い方
早速ポイントを紹介していきたいのですが、その前にポイントの読み方と使い方について軽く説明させてもらおうと思います。
各ポイントは以下のような要素に分けて説明します。
- 名前
- 概要
- イメージ
- 状況
- 問題
- 具体的なアクション
- 実施後の結果
また、各ポイントには以下のような特徴があります。
- 複数のチームで効果があったものをまとめたものである
- 特定の状況において有効である
- いつでも、全てのチームに、有効なものではない
これらのような特徴があるため、お薦めの読み方と使い方はこのようになります。
- ポイントに記載されている「概要」「状況」「問題」を読む
- 自身の状況に当てはまっていれば、具体的なアクション以降も読む
- 他のポイントについても、1,2を繰り返す
- 自身のチームが特に当てはまるポイントを1つ選ぶ
- 選んだポイントに記載されている具体的なアクションを実施する
- 実施後にチームの「状況」をふりかえる
- 1.に戻る
ポイント(1):ユーザーの現場に出向く
概要
新しい機能の企画/開発を始める前に、実際にその機能を使用する環境に出向き、ユーザーの動きや困り事を自分自身の目で確認しよう。できることならユーザーの活動を体験してみよう。
イメージ
状況
あなたはIT部門の開発チームのメンバーであり、新しい機能の開発を依頼されたところである。ユーザーは自社のメンバーのようだ。企画を担当するチームが調査を行い、ユーザーの課題とそのソリューションの要件を書いたドキュメントを作ってくれた。ドキュメントだけでは理解が難しかったが、企画チームに質問することで理解できた。作るもののイメージができたので設計を開始する直前である。
ただ嫌な予感もしている。今まで10年間以上この流れで仕事をしてきているが、ユーザーから感謝の言葉をもらったことはほとんどない。それどころかリリースしたほとんどのアプリは使われていないといううわさもある。
問題
企画チームが言った通りのアプリを作れたが、リリースしてみるとユーザーが使ってくれない。実際の現場で使ってみると、使いにくいところが幾つもあり、逆に作業効率を下げてしまう、ということだった。また、画面に表示されているデータやメニューが多過ぎることで、一番使いたい機能が使いにくくなっているのも大きな問題であることが分かった。
具体的なアクション
開発を始める前にユーザーに会いに行こう。1日でいいので実際に働いている現場を見せてもらおう。「どんな機能を作ればよさそうか」はいったん忘れ、この日はユーザーと、ユーザーが働く環境を理解することに集中しよう。
「今の作業はどんな目的で実施されてたんですか?」「この環境だとさっきの作業は大変そうに見えましたが実際どうでしょう?」のように、ユーザーや環境に興味を持って質問するとよい。
見学よりさらに効果的なのはユーザーの作業を実際にやってみることだ。ユーザーによっては作業服やクリーンスーツなど、日常では袖を通すことがない格好で作業していることもある。実際の作業環境に立ってみることで「視野が狭い」「タッチパネルの操作ができない」「薄めの色だと区別できない」など、さまざまなことに気付くことができるはずだ。
ユーザーに関する情報は入手の仕方によって解像度が全く異なる。
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ユーザーの役に立つアプリを作り、ユーザーに喜んでもらいたいと本気で思うのであれば、少しでも深くユーザーを理解することに時間をかけよう。
実施後の結果
以前よりも格段にユーザーや環境を理解した状態になっている。また、ユーザーの言葉で会話することができるようになるため、ユーザーとの信頼関係も生まれてくる。信頼関係が築けていれば、開発したアプリに対して率直なフィードバックをもらうことができるようになる。率直なフィードバックをもらうことで、さらにユーザーを理解し少しずつゴールに近づいていけるようになる。
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