デザイナーの登竜門「サローネサテリテ」で活躍する日本の若手3Dプリンタ使いたち:林信行が見たデザイン最前線(2)(3/3 ページ)
ミラノデザインウィークの中で、“国際的若手デザイナーの登竜門”とうたわれ注目を集めているのが「サローネサテリテ」だ。これまで数々のスターデザイナーを輩出してきた同展示会で、若手日本人デザイナーたちの活躍が目立った。現地取材の模様をお届けする。
マテリアルごとの個性の模索、伝統と革新の融合――アイデアあふれる展示群
前述の通り、今年は2年に1度のサローネ国際照明見本市(エウロルーチェ)の開催年ということもあり、ミラノデザインウィーク全体で照明関係の展示が多く、サテリテに出展していた日本人デザイナーの間でも照明作品の出品が目立っていた。
その中でも、面白かったのがアルミからレザー、ヘチマ、れんがまで、さまざまなマテリアルの“照明器具としての可能性”を探っていたATSUSHI SHINDO(進藤篤)氏の展示だ。
メインの展示は、着物の羽織りに着想を得た「HAORI」という作品。布状の素材を巻いた羽織りを思わせる自立するシェードの襟の部分に棒状のLEDを取り付け、それぞれのマテリアルの反射が生み出す光の表情の違いを楽しめるようにしたものだ。メッシュ状のアルミ、世界的ブランドでもある「神戸ビーフ(神戸牛)」の皮革素材「神戸レザー」、さらには老舗染色加工会社「セイショク」が提案する布をアップサイクルした素材のバージョンを用意していた。
画像5 「HAORI」を中心とした進藤篤氏の展示。記事中で紹介した照明作品の他に、腐らず保存できるハチミツをインテリアとして飾れるようにした作品や、そのインテリアをモチーフにした照明なども展示していた[クリックで拡大](撮影:筆者)
さらに「LOOF」という照明では、かつてたわし作りなどにも使われ、現在では需要も生産量も落ちているヘチマを材料にしたシェードを採用し、人と自然とのつながりを表現していた。
一方、温かいオレンジ色の光をともす「DIG-DUG」は、れんがを用いた照明となっている。織部製陶の独自技術「クレイマイスター」と呼ばれる手法が用いられており、形成した陶土を48時間乾燥させた後、全長50mの連続窯を通し、1320℃の高温還元焼成炉で48時間かけて焼き上げることで独特の風合いを生み出している。そして、その表面に酸化鉄を直接塗り込むことで、より豊かな赤色の光をともらせるようにしたという。
その他、展示会場では、話題の生成系AI(人工知能)を使った作品も見られた。デザイナーの山澤英幸氏は、AIが生成したチェアのデザインを、和紙に糊漆(のりうるし)などを塗って成形する「紙胎(したい)」という技術でアップサイクルしたボール紙を用いて実現していた。これは“再創造される生命”をテーマにした作品だったが、最新のAI技術と組み合わせ、伝統工芸技術である漆芸(しつげい)が再創造されている点も大変興味深いものだった。
画像6 山澤英幸氏の展示ブース。紙に「紙胎(したい)」という技術を施し、アップサイクルして作ったチェアや再生素材から作った樹脂を用いて製作した色のグラデーションが美しいローテーブルなどを展示[クリックで拡大](撮影:筆者)
以上、サテリテの展示会場で存在感を放ち、注目を集めていた若手日本人デザイナーの作品やそのコンセプトなどを紹介してきた。最後に、サテリテの展示会場取材のダイジェスト映像をお届けする。一部重複する内容もあるが、記事では紹介し切れなかったブースも取材しているのでぜひご覧いただきたい。
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