物性を起点としたモデリングについて考える:1Dモデリングの勘所(17)(3/4 ページ)
「1Dモデリング」に関する連載。連載第17回は「物性を起点としたモデリング」をテーマに、まず物性について種々の視点から考察し、これを受けて物性を起点とした材料力学、熱力学、電気、感性とモデリングの関係について考える。
熱力学とモデリング
熱力学(参考文献[2])は、系と外界との間のエネルギーの移動およびその結果生じる温度や状態の変化を知ることにより、物質の巨視的性質を明らかにする。これにより、「冷蔵庫がなぜ冷えるのか?」「自転車に空気を入れるとなぜ空気入れが温まるのか?」といった疑問に答えてくれる。また、現代の環境問題は地球規模の熱的問題に置き換えることができる。一方、熱力学は紆余(うよ)曲折を経て体系化されたという歴史を持つ(参考文献[3])。ここでは、工学的に重要な伝熱現象(熱現象におけるエネルギー移動の機構)とエアコンに代表されるヒートポンプについて考える。
伝熱現象は、図6に示す4形態に分類できる。定常熱伝導では熱伝導率が、非定常熱伝導では温度伝導率が該当物性となる。
図7に、さまざまな材料の熱伝導に関する物性を、縦軸に熱伝導率、横軸に温度伝導率をとって示す。これにより、金、銀、銅が熱を伝えやすいことが分かる。一方、対流熱伝達(参考文献[4])は一応、熱伝達率で代表されるが、流体現象が絡むため流体の物性(密度、粘性係数、熱伝導率、比熱)および流速、代表長さなどが複雑に絡み合っており、理論的に評価することは困難である。ふく射伝熱は純粋に物理現象であり、放射率は表面の性質により、0と1の間で変化する(黒体では1)。
ヒートポンプ(エアコン)のモデリングに際しては、エアコン内を流れる冷媒の1サイクルの変化を理解することがモデリングの起点となる。図8にエアコン内の冷媒(R410A)の「モリエル線図」(1サイクルの変化を、縦軸に圧力、横軸に比エンタルピーをとり表現した線図)を示す。
冷媒は、圧力と熱の出入りに応じて、液相⇒二相⇒気相⇒二相⇒液相と相変化し、これに対応して物性も変化する。液相の比熱、気相の比熱、気化熱、蒸発熱が冷媒の物性であるが、これらは圧力と温度の関数となっている。熱機関が高温熱源からエネルギーを吸収して外部に仕事をするのに対し、ヒートポンプは低温熱源からエネルギーを吸収し、外部からの仕事を受けて(図8の圧縮機)、エネルギーを高温側に排出する。エアコンは、冷房時には蒸発器が室内機に、暖房時には凝縮器が室内機となっている。図8を基に、エアコンの冷暖房能力に関する式、冷媒質量流量の式、圧縮機の仕様に関する式を定義できる(参考文献[5])。
参考文献
- [2]サーウェイ 基礎物理学 III 熱力学(原著第5版)|東京化学同人(2014)
- [3]山本義隆|熱学思想の史的展開1、2、3|ちくま学芸文庫、筑摩書房(2008)
- [4]JSMEテキストシリーズ、伝熱工学|日本機械学会(2005)
- [5]大富、平野|製品・システムの複合化に対応した設計を支援〜対話形式で解きほぐすModelica活用法〜、第36回 エアコンのモデリング(その2)|機械設計2022年12月号
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