急回復する航空エンジン整備需要を取り込め、工場拡張の三菱は日本品質で勝負:工場ニュース(3/3 ページ)
三菱重工航空エンジンは小牧北工場で拡張したエンジン整備工場のオープニングセレモニーを行った。
毎回異なる整備仕様、配慮の行き届いた日本品質が一番の強み
航空エンジンの整備は飛行時間にして1万〜2万時間、4〜5年に一度の間隔で持ち込まれる。その他、鳥を吸い込むバードストライク発生時やエンジン不調時にも整備が必要になる。
空港で飛行機から取り外された航空エンジンは、トラックに載せられて整備工場に搬入される。その後、分解して部品の汚れを落とすクリーニングを実施し、外観や寸法などを検査し、継続して使用可能か、もしくは修理や交換が必要かを判断する。そして必要な部品を集めて再び航空エンジンに組み立て、エンジンテストセルに持ち込み機能試験を行う。試験後は内部の内視鏡検査や外観検査を経て出荷となる。1基の整備には約90日を要する。
航空エンジンは1基に約2000種類、約3万点の部品が使われている。また、モジュール構造になっており、モジュール単位での整備も行われている。使用環境によってエンジン内部の状態は千差万別で、整備の仕様は毎回異なるため、人手が中心の作業となり自動化が難しい領域でもある。ただ、ロボットによる燃焼器の耐熱パネルのスクリューの締め付けや、外観検査の自動化にも部品製造先行ではあるが取り組もうとしている。
牛田氏は「日本品質がわれわれの1番の強みだ。例えば、航空エンジンには外側にたくさんのチューブが付いているが、チューブの途中がエンジン本体に接触しているとエンジンの細かな振動が当たって、摩耗して燃料漏れなどにつながる。そういった細かな配慮をした作業を、指示がなくてもしっかりとできる。それによって4年、5年ではなく6年、7年と次の整備までの期間がより長く使い続けることができるということが実際に起こっている。価格競争力では厳しい部分もあるが、そういった次の整備までの期間の長さなどもアピールしている」と語る。
世界的に高まるカーボンニュートラルの機運は航空業界にも及んでおり、航空機の電動化やバイオマスなどを用いたSAF(Sustainable Aviation Fuel、持続可能な航空燃料)、水素燃料などへの取り組みも始まっている。
三菱重工航空エンジン 経営管理部 部長の山本成氏は「電動化や水素燃料は、重量制限があって熱効率の高さを求められる航空エンジンにとっては、なかなかチャレジングではないかというのが、われわれのエンジニアの見解となっている」と語る。
ではどのようにカーボンニュートラルを進めるのか。「SAFの利用で60〜70%を削減し、残りを燃費のいい新しい航空エンジンの開発によって下げていくという取り組みになる。2030年代、2040年代に出る航空エンジンはSAF燃焼が可能な今の形態のエンジンで、その先が電動化や水素燃焼かもしれない、そんな時間軸で考えている」(山本氏)。
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