「控えめに言って性能はラズパイの100倍」IdeinとアイシンがAIカメラを開発:人工知能ニュース
エッジAIスタートアップのIdeinは、新製品となるAIカメラ「AI Cast」を発表した。ハードウェアの開発と製造はアイシンが担当し、2.5Wの低消費電力ながら26TOPSのAI処理性能を持つAIチップを搭載している。
エッジAI(人工知能)スタートアップのIdeinは2023年2月7日、オンラインで会見を開き、新製品となるAIカメラ「AI Cast(アイキャスト)」を発表した。国内市場で約1万5000台の出荷実績を持つIdeinのエッジAIプラットフォーム「Actcast」によってAIモデルを含めたソフトウェアの運用を容易に行える。加えて、ハードウェアの開発と製造は大手自動車部品メーカーのアイシンが担当することで高い品質を確保している。搭載するAIチップは、イスラエルのHailoが開発した「Hailo-8」で、2.5Wの低消費電力ながら26TOPS(1秒当たり26兆回の四則演算が可能)ものAI処理性能を実現している。価格は非公開で要問い合わせとなっており、量産出荷は2023年4月を予定している。Idein CEOの中村晃一氏は「2020年1月から2年間で約1万5000台を出荷したActcastに匹敵するレベルを目指したい」と意気込む。
AI Castは外径寸法が幅76×奥行き58.5×高さ130mm、重量が約180g。手のひらに載るサイズであり、さまざまな場所に設置しやすくなっている。カメラの画素数はフルHD(1920×1080)で、画角は水平62.2度、垂直48.8度。通信インタフェースは100base-Tのイーサネットの他、Wi-Fi(2.4G/5GHz)、Bluetooth 5.0 BLEに対応しており、DC(最大5V/4A)もしくはPoE(Power over Ethernet)による電源供給が可能だ。USB Type-Aインタフェースも1チャネル備えており、本体に搭載してないマイクやスピーカーなどの接続に活用できる。動作環境は温度が−10〜40℃、湿度が20〜80%となっている。
AI Castの開発を担当したアイシン 先進開発部の徳山現氏は「Actcastのメインユーザーである小売りの店舗や施設などの環境になじむデザインと小ささにこだわって設計した。また、アイシンが長年培ってきた車載技術をベースに開発や評価を行っているので安心して利用していただけると考えている。まずは屋内向けの仕様から展開するが、防水や防塵(じん)への対応、動作温度の拡張などを進めて、セキュリティ用途や屋外利用などに向けた展開も広げていきたい」と語る。
AIチップのHailo-8は、AIモデルの推論処理で広く利用されているGPUとは異なる「構造定義型データフロー(Structure-defined dataflow)アーキテクチャ」を採用することで、26TOPSという高いAI処理性能と、定格で2.5Wという低い消費電力を両立している。また、Hailo-8のパッケージサイズは17mm角と小さく、メモリをチップ内に混載しているため外付けメモリが不要である。AI Castが手のひらサイズを実現できたのは、Hailo-8を用いた電子回路のフットプリントが小さく抑えられることも貢献している。「今回のAI Castだけでなく、アイシンの車載製品にもHailo-8を使っていきたいと考えている」(徳山氏)という。
Hailo-8の26TOPSという処理性能は理論値だが、Ideinは画像分類や物体検出、インスタンスセグメンテーションなどのAIモデルを用いた実測値も確認している。ResNet-v1 50を用いた画像分類は実行性能が9.3TOPS/1秒間に勝利できる画像の枚数が1327枚、YOLOv5mを用いた物体検出は同8.2TOPS/154枚、YOLOv5l segを用いたインスタンスセグメンテーションは同9.5TOPS/64枚だった。
IdeinがActcastの展開を広げていく中で強みになっていたのは、エッジコンピューティングデバイスとして世界で最も利用されている「Raspberry Pi(ラズパイ)」をハードウェアとして活用することだった。中村氏は「AI Castの実測値ベースのAI性能は、控えめに言ってもラズパイ単体の100倍以上だ。これだけの性能があれば、AIカメラの高解像度化、処理の高速化や高精度化、複雑なタスクのAIモデルの実行、複数のAIモデルの同時実行が可能になる」と強調する。
例えば、Ideinの技術を活用してAI処理の高速化を図ったラズパイ単体の場合には、192×192画素の解像度で、検出可能な物体は1種類、検出方法は位置と大きさとなっている。一方、AI Castでは、解像度が640×640画素、検出可能な物体は80種類、検出方法は位置と大きさに形状も加わるなど、大幅な性能と機能の向上を実現できている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ラズパイでそのまま動くが優位性に、エッジAIのIdeinがアイシンとの協業を深化
AIスタートアップのIdeinがエッジAIプラットフォーム「Actcast」の事業展開を紹介。会見には協業パートナーのアイシンも登壇し、これまでの開発成果に加え、自動バレー駐車システムや、自動運転バスなどへの搭載を想定しているマルチモーダルエージェント“Saya”の開発状況を説明した。 - 日本版の「Amazon Go」は普及するのか、問われるAIカメラの“価値”と“コスト”
リテール分野にAIを活用する動きが広まっている。その中でも本稿は、AIカメラを用いた無人決済システム実現に向けた取り組みを取り上げ、2020年のニュースを振り返りつつ今後の展開を考えていく。 - 電卓や楽器に並ぶ事業に、カシオのデジカメ技術を受け継ぐAIカメラの実力
カシオ計算機は現在、超高速低消費電力AIカメラモジュールの開発に取り組んでいる。同社は2018年にコンシューマー向けデジタルカメラ市場から撤退したが、デジカメで培った技術は大きな財産として残された。その技術資産で開発したものの1つがAIカメラモジュールだ。担当者にAIカメラの技術詳細と市場戦略について話を聞いた。 - ソラコムのAIカメラに高機能版、ソニーの「IMX500」採用でリアルタイム性を向上
ソラコムは、AIカメラ「S+ Camera Basic(サープラスカメラベーシック)」にソニーセミコンダクタソリューションズのインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」を組み込んだ高性能モデル「S+ Camera Basic Smart Edition」を開発したと発表した。 - 電源をつなげばすぐ動くエッジAIカメラ、ラズパイとSIMの組み合わせで開発
「電源をつなぐだけで稼働する」ソラコムが開発したエッジAIカメラ「S+ Camera Basic」と管理ツールである「SORACOM Mosaic」の特徴を、同社代表取締役社長の玉川憲氏らに聞いた。 - エッジAIプラットフォーム上のアプリストアでAIカメラ用アプリを販売開始
Ideinは、同社が開発、運営するエッジAIプラットフォーム「Actcast」のマーケットプレース上で、京セラコミュニケーションシステムのAIアプリケーション「メータリーダー」の販売を開始した。